第12章 ここにいていい理由
唇を軽く押し当てると、エマの柔らかな感触が伝わってくる。
チュッ、というリップ音を立たせて唇を離せば、大きな瞳を今にもこぼれ落ちそうなほどに見開いた愛らしい顔が目に入った。
エルヴィンはもう一度エマに触れるだけのキスをしながら、今度は片手を彼女の後頭部へ添え、もう片方は腰に回し優しく引き寄せる。
そしてそうするのと同時に、無防備に開いた口の中へ舌を侵入させた。
その瞬間エマの身体はビクッと跳ね、反射的に口を閉じようとするが、エルヴィンの舌はそれを阻止するかのように口内へと進んでいく。
歯列をゆっくりとなぞり、奥に引っ込んでいたエマの舌を絡めとると、彼女は小さく吐息を漏らした。
エマが涙を流しながら心の内を明かす姿を見て、今まで彼女に対して我慢していたものが一気に溢れ出してしまった。
自分は割とどんな時でも理性を保つのが得意だと思っていたのだが、どうやらエマの前ではそうはいかないらしい。
最初から彼女への気持ちを隠し通すつもりもなかったが、こうも簡単に理性を保てなくなってしまうとは…
エルヴィンは煩悩の中でぼんやりと考えながら、エマの舌を何度もすくい上げ、絡ませていった。
エルヴィンに突然キスをされた。
まったく予想外の展開に抵抗しようと思えば出来たはずなのに、太い腕に抱かれ、頭を抑えられたまま濃厚な口付けをされれば、身体はたちまち言うことをきかなくなってしまった。
初めて経験する官能的なキスに、エマは頭の中が蕩けそうな、身体の芯が熱くなるような感覚に陥りそうになっていた。
この感覚にのまれてはいけないと頭では分かっているのだが、エルヴィンの妖艶な舌使いにそんな考えもぼやけてしまいそうになる。
一体自分の身体はどうしてしまったというのだ…
このままエルヴィンに身を任せていては、後戻り出来なくなってしまいそうだ…