第12章 ここにいていい理由
エルヴィンは静かに涙を流すエマの頭をそっと撫で続けた。
「今話した通り、君がここに居ていい理由は存分にある。だから何も気負う必要はない、そのままでいい。
それにもう一つ、実は君にここに居て欲しい別の理由もあるんだ。」
「え……?」
話をそこまで聞くと、エマは小さな声を上げてエルヴィンを見つめた。
「何より私が一番、君を必要としている。」
エルヴィンは透き通ったガラス玉のような瞳でエマを捉え、迷いなく言い切った。
「………だん」
「からかってなどいないよ。最初から本気だと言っていただろう?」
咄嗟に何か言おうとしたエマを、エルヴィンの力強くも温かな声が遮る。
そして同時に、エマはその大きな両腕に包み込まれ、彼の広い胸の中に収まった。
「自分でも馬鹿げたことを言ってるのは分かってる。だが…もうどうしても止められないんだ。」
エルヴィンの強い鼓動が、押し付けられた耳に伝わってくる。
心做しか少し声は震えていて、何かを必死に堪えているかのようだった。
エマは衝撃のあまり目を見開いたまま瞬きすらまともにできなかったし、涙はどこかへ引っ込んでしまった。
エルヴィンは小さな体を抱きしめたまま続ける。
「私は冷酷で非情な調査兵団の団長としてあり続けていた。人類を救うためなら、時には人間性をも捨て去る覚悟も持ち合わせているつもりだ。
だが…まだ完全にそうはなりきれていなかった。
君を見れば嬉しくて心臓が高鳴るし、君といると心にしまったはずの人間らしい感情が溢れ出してくるんだ。
君といることで、私は久しぶりにそういう感情を持てている気がしてね。そしてそれが自分の支えにもなっている。」
エマは何も言わず、エルヴィンの話を黙って聞いていた。