第12章 ここにいていい理由
「派手な活躍も立派だが、コツコツ小さな努力を積み重ねることもとても大切だ。そしてそれができる人間は実は結構少ない。
実務ももちろん助かっているが、君みたいなタイプの人間は兵団にとってもすごく意味のある存在なんだよ。」
「そうでしょうか…」
エルヴィンの言う意味がよく分からず、曖昧な返事をしてしまう。
「人は怠けてしまう生き物だ。特に慣れや決まった習慣の中にずっと居続けたりするとどうしてもその傾向が強くなる。
それは兵士にとっても例外じゃなく、壁外調査のない冬は特に気が緩む者もいる。
そんな中君のそのひたむきに努力し続ける姿勢は、兵士達にもいい刺激を与えているみたいなんだ。
君の日々の行いが、自然と仲間の意識を高めることにも繋がっているんだよ。」
エルヴィンはエマの目を真っ直ぐ見つめたままそう続けた。
「なんだか私には勿体ないお言葉です…」
エマはエルヴィンの言うことを素直に受け入れられず、またも謙遜してしまった。
「そんなことはない。もっと自分に自信を持っていい。」
エルヴィンはエマに微笑みかけ、優しく頭を撫でた。
「…………」
エルヴィンの優しさに、自然と目頭が熱くなってく。
エマは瞳を潤ませながらゆっくりと口を開いた。
「……ずっと、ここに来てから悩んでたんです。私は兵士にもなれないし、何か特別な力がある訳でもない。なのにずっとここに置いてもらって、このままでいいのかな…って。」
エマの脳裏に、ウォール・シーナで見つけたあの古井戸の光景が過ぎる。
壁外調査が決まり、リヴァイや他の兵士がこれまで以上に訓練に励んだり、兵士達に漂い始めた決死の雰囲気を感じ取ると、エマは急に自分はやはり場違いなのではないかと思えてきたのである。
やはり自分はここに居てはいけないのではないか、早く元いた場所に戻った方がいいのではないか。
エルヴィンに気持ちを少し吐露すると、心の中を急激に負の感情が支配していってしまった。
「………っ」
ついに水分を溜めきれなくなった瞳から、一滴の雫が頬を伝った。