第12章 ここにいていい理由
顔を上げると、突然エルヴィンの左手が自分の右手首を掴み、手のひらを上に向けさせられた。
そしてその上に、真っ黒な細長い箱がそっと置かれる。
「これは…?」
「開けてごらん。」
エルヴィンに言われるがまま箱を開けると、中にはウォールナットの木目が美しい万年筆が入っていた。
「何か身につけるものにしようとも思ったんだが、君はこういう物の方が喜んでくれる気がしてね。それは私も愛用してるんだが、手に馴染んですごく書きやすいんだ。毎日頑張ってくれているエマにも、ぜひ使って欲しいと思ってね。」
「…こんな高級そうなもの、頂いてしまってもいいんですか?」
エマはエルヴィンからの突然のプレゼントに少し戸惑いながら尋ねる。
「構わない。たくさん使ってくれ。」
エルヴィンは優しい表情で答えた。
「……ありがとうございます。」
エルヴィンの言葉を聞いて手の中にある万年筆に視線を落として見つめたあと、エマはニッコリと笑って礼を言った。
エルヴィンの言う通り、自分はアクセサリーなどにはあまり興味を惹かれないし、ここでは毎日長時間ペンを握るから万年筆は間違いなく重宝するだろう。
もちろん単純に贈り物を貰ったこと自体も嬉しかった。
しかしそれ以上に、エマはエルヴィンからこの万年筆を貰ったことで、ここでの自分の存在をエルヴィンにきちんと認めてもらえたような気がして、どちらかと言うとそのことの方が嬉しく思えたのである。
「喜んで貰えて私も嬉しいよ。君はいきなりこの世界に迷い込んできたのに、日々すごく兵団のために尽くしてくれているから、何か礼をしたいと思っていたんだ。」
「御礼だなんて。私はそんな大層なことは何も出来ていませんよ…」
エマは謙遜するが、エルヴィンは首を小さく横に振ると話しだした。