第12章 ここにいていい理由
「んーっ!」
エマはペンを走らせる手を止めると、目を瞑って両手を上げ大きく伸びをした。
コンコン。
「あっ、はいっ!」
急に聞こえたノックの音に、少し気を抜いていたため慌てて思わず立ち上がって返事をしてしまう。
「そんなに堅苦しく出迎えてくれなくても大丈夫だよ。」
顔を覗かせたのはエルヴィンだった。
「団長、お疲れ様です。すみません、不意のノック音に驚いてしまって…」
「驚かせてすまなかったな。今は一人か?」
エルヴィンは部屋をくるりと見回して中へ進む。
「はい。兵長ならまだ訓練に行ってます。今日も夕食まで戻るかどうか…」
「いや、用があるのは君のほうなんだ。」
「私ですか?」
エルヴィンはそう言いながらエマの机に両手をつき、目の前のエマの顔を覗き込んだ。
突然自分へと注がれる真っ直ぐな視線に、少し動揺してしまう。
「…元気そうだな。」
「は、はい!特に体調の悪いところはありません!」
エマは思わず肩に力が入ってしまい、無駄にハキハキと返事をすると、エルヴィンは吹き出した。
「あぁ、そうだな。血色もいいし瞳も澄んでいてとても綺麗だ。いつも通りで安心したよ。」
エルヴィンは安堵した表情で続ける。
「内地から戻ってから会議やら外出の予定が詰まっていて、なかなか君とゆっくり話ができなかったから少し心配だったんだ。…その後は眠れているか?」
…もしかしてあの憲兵とのことを気にしてくれていたの?
エマは余計な心配をかけたくなかったのと、自分からは話しずらくて自分の口からはエルヴィンに話せていなかったのだ。
だが、今回の件であの男が無事開拓地送りになったのはエルヴィンのおかげでもある。
「だいぶ落ち着いて眠れるようになりました。余計な心配をおかけしてすみません…私もずっと、団長にお礼を言わなければと思ってました。
あの男のこと、告発してくださってありがとうございました。強制退団させられたと聞いて安心してます。」
エマはエルヴィンに頭を下げると、言うのが遅くなってすみません、と付け加えた。