第11章 ウォール・シーナにて ※
「私は兵長に助けられてばかりです。訓練所の森で迷った時も、泥酔してしまった時も。さっきも、まさか兵長が来てくれるなんて思ってもみなくて…」
エマは穏やかな顔で話していたが、そこまで言いかけるとまた目に涙を溜め始めてしまう。
思いを伝えようとするが、つい感情が昂って言葉を詰まらせてしまいそうだ。
けれどエマは必死に言葉を紡いだ。
「兵長の姿を見た時…心の底から安心して……本当に嬉しかったんです。でもっ…兵長に迷惑ばかり掛けてる気がしてならなくて……
!!!」
話の途中に突然、唇に柔らかいものが触れた。
そしてそれがリヴァイの唇であると気付くのに、大した時間はかからなかった。
大きく見開いた瞳に、まっすぐ伸びた睫毛がかかる閉じられた三白眼と、色白の肌が視界に飛び込んでくる。
心拍数は一気に上昇し、頭が真っ白になった。
時間にして2、3秒であったが、エマにはもっと長く感じていた。
リヴァイは唇を離すとゆっくり瞼を開け、エマを見つめる。
そして指で頬に伝う涙を拭いながら、
「俺はお前が無事なら後のことはどうだっていい。だからそんな顔はするな。」
と温かな声でエマを包み込んだ。
「………っ、はい…。」
エマもリヴァイを見つめ返し、小さく返事をする。
高鳴る胸の鼓動と上気した頬を抑えることが出来ず、それを悟られるのが恥ずかしかったが、何故かリヴァイから目をそらす事は出来なかった。
そして同時に、自分の中から溢れ出る温かな気持ちに気が付いた。
まるでリヴァイの言葉が、声が、視線が、心の中へと入り込み、傷を癒してくれているように、すぅーっと心が軽くなっていく。
とても心地が良かった。
今はもう少し、この心地良さに甘えてしまってもいいだろうか。
「リヴァイ兵長。」
「なんだ?」
「もう少しだけ…このままでいてもいいですか…?」
エマはそう言うと真っ赤な顔を隠すように俯き、リヴァイの腰にぎこちなく手を回した。
「……あぁ、好きなだけそうしろ。」
リヴァイは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな表情に戻りまた優しく抱き寄せた。