第2章 始動
エルヴィンは顎に添えた指を滑らせながら少し考えた後、ゆっくりとその口を開いた。
「…いいだろう。君はここに身を置き私たちの手助けをしながら、帰る方法を模索してくれ。」
「本当ですか?!ありがとうございます!」
安堵して思わず頬の筋肉を緩めると、エルヴィンも柔らかく微笑んだ。
しかし次の瞬間にはその微笑みを奥に引っ込め、真剣な顔でエマを見つめる。
「ではさっそく手始めに、君にやってもらいたいことがある。」
「何でしょうか…?」
「君のいた世界とこことでは違っていることが多すぎるだろう。おそらく、君の想像もしないような現実もここには存在している。
無知なことほど恐ろしいことはない。ここでそれなりに暮らすための知識をつけてもらう。」
「それなりに暮らすための、知識…」
エマはエルヴィンの言葉を繰り返し、少し考えたあと、顔を上げて答えた。
「分かりました!この世界で生きるために必要なことなら、頑張ります!」
いい目だな。
清らかで、誠実で、純粋で…
エルヴィンは自分を見つめるエマの瞳にの中にそんな類のものを感じて、思わず頬を緩めた。
「あぁ、よろしく頼むよ。それから、我々はあくまで兵士だ。今日は休日だが、明日からまた“日常”が始まる。
とりあえず今日は、リヴァイに兵舎内を色々と案内してもらうといい。」
バタン!!!
エルヴィンが言い終わるのと同時に、団長室のドアが勢いよく開いた。
「エルヴィン!新しい巨人の捕獲道具を作ろう!!とても良い案が浮かんだんだ!早く形にしたくてさ!開発費用はどうにか工面して欲しい!…って、え?」
息を切らして現れたのは、すらりと足の長い長身の女性だ。
赤茶色の髪を後ろで無造作に束ね、縁の薄い楕円形の眼鏡を掛けている。
「どうやら俺は案内役をしなくていいらしいな。」
リヴァイは短く呟いた。
エマはその意味が分からずリヴァイを見るが、やれやれと言った様子で目を伏せていた。