第2章 始動
「——なるほど。この世界のことも、元の世界にどう戻ればいいかも何も分からないということか」
エルヴィンは団長室の応接ソファに浅く腰掛け、顔の前で手を組みながら、エマがこの世界に来た経緯を聞いていた。突然突拍子もない話をされても顔の色ひとつ変えず冷静沈着だ。
「こいつをここから追い出すことは簡単だが、まぁこんな世の中だ。一人で外へ出たって今日の食糧も上手く探せるか分からねぇし、運が悪けりゃ物騒な奴に好きなようにされるだけだろうな」
「!」
そんなに厳しい世界なのか。
「リヴァイ、不幸にもこの世界にたどり着いてしまった無知な少女を、お前は放ってはおけないと言うのだな?」
「俺もそこまで腐った人間じゃねぇ。めんどくせぇがな」
エマは隣に座るリヴァイをちらりと盗み見る。
相変わらず鋭い目つきでエルヴィンの方を見ているが、その瞳の中に微かに彼の優しさを見た気がした。
「あの! エルヴィン団長!」
突然声を上げたエマに、エルヴィンとリヴァイの視線が同時に注がれる。
こんなこと言うのは図々しい、かな……
でも今の自分ではここから出たところでリヴァイ兵長の言う通り何もできずに野垂れ死ぬか、物騒な奴に捕まるだけだろう。
何も分からないことだらけの中、一人で生き延びてこの世界から脱するなんて非現実的すぎる。
エマは勇気を振り絞って続けた。
「もしご迷惑でなければ、……いや、きっとご迷惑をおかけすると思いますが、私をここにしばらく置いていただけませんか? 掃除でも皿洗いでも、出来ることは何でもします!」