第11章 ウォール・シーナにて ※
憲兵はそこから歩いてすぐの所にあったひとつの建物に入ると、正面のフロントに声をかけた。
エマも後を追って中に入ると、憲兵はフロントの男に何か話しているようで、エマは入口付近で待ちながらロビーを見渡した。
あれ…?
異変にすぐに気が付いた。
そこにはリヴァイやエルヴィンの姿はおろか、今朝来た宿とはまったく別の場所だったのである。
「あの、ここじゃないです!」
エマは憲兵が間違えたんだと思い近寄って言うが、憲兵はチラッとエマの顔を振り返った途端、勢いよく彼女の右手を引っ張って歩き出した。
エマは突然の事に反応するのが遅れ、憲兵に引っ張られるまま足を進めてしまう。
「ちょっ、あの…!どうしたんですか?!」
男はエマの声を無視し、振り返りもせずぐいぐいと宿の奥へと進むと、ひとつの部屋にルームキーを差し込んだ。
ドサッ一
「きゃっ」
憲兵はドアを閉め内側から鍵をかけると、エマを乱暴に床に突き飛ばす。
尻もちをつきながら、エマは目の前に立つその男の顔を見上げた。
そこには先程までの物優しい目はどこかへ消え、冷淡な瞳でエマを見下ろす男の姿があった。
エマの頭の中はあっという間に恐怖に支配され、その場から立ち上がることも、声を出すことも出来なくなっていた。
すると今度は急に表情を緩めてエマの前にしゃがみ込み、彼女の頬をうっとりとした手つきで撫でながらゆっくり口を開いた。
「ダメだよ?そんなに人を簡単に信用しちゃ。」
滑らかな頬に手を滑らせながら、ニヤリと口端を吊り上げる男。
何も言い返すことが出来ず、カタカタと震え出すを片腕で抱きしめながら、ただ男の目を見ることしかできない。
恐怖のあまり全身の血の気が引いていくのを感じた。