第11章 ウォール・シーナにて ※
この井戸に入れば、元の世界に帰れるかもしれない…
確証はなかったが、エマは直感でそう思った。
確かめてみたい。
だけど、もしこのままここを去ることになってしまったら…
いや、でもいずれは帰らなければならないのだ。
エマの気持ちはとても複雑だった。
ここで過ごす時間は、いつの間にかエマにとってかけがえのないものになりつつあったのだ。
自分の生まれ故郷、家族や友人はもちろん大切だ。
そして自分が生きる場所はここではないことも分かっている。
しかし、ここに居られる時間が有限だと考えれば考えるほど、この世界にさらに執着してしまいそうになってしまう…
やっぱり今はまだ、確かめたくない…
不気味なほど現世界の景色と一致するその井戸は、確かにここに存在している。
だけどエマにはそれを確かめる決意なんてできていなくて、ただ立ちすくんでその佇まいを眺めることしかできなかった。
結局、エマはしばらく古井戸を見つめたあと、ゆっくりと踵を返し歩き始めるのだった。
辺りが夕闇に包まれる中、エマはリヴァイと別れた店を目指していた。
が、
「どうしよう、分かんない…」
完全に道に迷っていた。
まずはこの狭い路地から先程の大通りへ抜けたいのだが、この辺一帯は相当入り組んでいるらしく、さっきから同じような道を行ったり来たりである。
しかもここは人通りも皆無で、誰かに道を聞くことも出来ずにいた。
リヴァイと別れてから30分ほどは経っただろうか。
もし戻っていたら、きっと自分を探しているだろう。
エマは焦る気持ちを抑え冷静になろうとしたが、そうすればするほど焦ってしまっていた。
その時。
「!!
あの……!!」
エマは前方を歩く人影を見つけると、咄嗟に声を張った。