第11章 ウォール・シーナにて ※
「それにしても立派な建物ですね。」
「建物だけはな。」
どことなく嫌味なリヴァイの言葉を聞きながら辺りを見回すと、周りは背中にユニコーンの紋章を施したジャケットを羽織る兵士で溢れていた。
エマは見慣れない建物と兵士達の姿に少し緊張した。
「よう、エルヴィン。」
するとエマ達の後ろから、一人の男性の声がする。
「ナイル。久しぶりだな。」
「そうだな。元気そうで何よりだ。…ん?その後ろにいる子は誰だ?」
ナイルと呼ばれたその男性兵士は、顎に薄ら生やした髭を手で掻きながらエマへと視線を向ける。
「彼女は一ヶ月ほど前から私とリヴァイの秘書を兼任してもらっているんだ。」
エルヴィンに軽く目配せされ、エマは一歩前へ出て、背筋をピンと伸ばした。
「エマ・トミイと申します。よろしくお願いします。」
「憲兵団師団長のナイル・ドークだ。」
「ナイル師団長、お会いできて光栄です。」
ナイルが手を差し出すとエマはその手を握り握手を交わした。
「それにしてもお前らが秘書を置くなんて珍しいな。」
「確かに自分の仕事を他人に振るのはあまり得意ではないが、彼女は優秀な秘書でね。かなり助かってる。なぁリヴァイ?」
「あぁ、そうだな。」
実際の所秘書を兼任している、という訳ではなかったが、今はその方が都合がいいのだろう、エマもリヴァイもエルヴィンの話に合わせていた。
「若いのに敏腕なんだな。だがトミイ、この二人の秘書はなかなか大変だろう?」
「いえ、少しでもお二人のお役に立てることが私にとっては嬉しいことなので、苦になりません。」
「…ほう。この子は秘書の鏡だな。」
「いえ、そんな。」
つぶらな瞳を見開いて感心するナイルに、エマは軽く謙遜した。
一通りの挨拶を済ませ建物内へ移動しようとすると、奥から一人の兵士が走ってやってきた。
「ナイル師団長、エルヴィン団長!ザックレー総統がお呼びです、こちらへ!」
「あぁ分かった。エルヴィン、いくぞ。」
「リヴァイ、すまない。私が戻るまでエマを頼む。」
「…了解だ、エルヴィン。」
エルヴィンはリヴァイにそう告げると、ナイルと共に足早に建物内へと消えていった。