第10章 翻弄される
「明日、ここから少し離れたウォール・シーナ内の憲兵団基地へ行く。
そこで来年度の予算審議会が行われるから、その会議にエマも出席して欲しいんだ。あぁ、もちろんいきなり何か頼むようなことはしない。こっちの世界の社会勉強だと思って着いてきてくれるだけでいい。」
「私なんかがそんな大それた場所に行っても大丈夫なんでしょうか…?」
「そんなことは心配しなくていい。エマならきっと上手くやれると信じてる。」
エルヴィンはエマの不安を拭うように優しい眼差しを向けていた。
「…分かりました。精一杯頑張ります!」
エマは少し考えたあと顔を上げると、エルヴィンを真っ直ぐ見据えて返事をする。
するとエルヴィンはエマの頭をポンポンと優しく撫でながら、
「ありがとう、よろしく頼むよ。」
と微笑んだ。
「お前は前回も今回も急に決めすぎだ。明日は俺達だけで行くはずだったから馬車は用意してねぇだろ?どう見てもこいつは乗馬慣れしてなさそうだが、どうするつもりだ?」
「私の後ろに乗せていくよ。」
エルヴィンはリヴァイの質問にさらっと答えると、涼しい顔で紅茶を一口啜る。
「…まぁそう言うと思ったが。」
「なんだリヴァイ、お前の後ろにエマを乗せた方が良かったか?」
「んなもんどっちでもいい。」
エルヴィンは心無しか楽しそうに聞いたが、リヴァイは眉間に皺を寄せて興味なさげな素振りで答えていた。
「あの、明日は馬に乗っていくんですか?」
「そうだが?」
向かいのエマに改めて聞かれ、リヴァイは眉間に皺を寄せたまま答える。
「馬って…あの馬ですよね?!乗馬出来るってことですよね?!私、小さい頃に牧場で乗馬体験したことぐらいしかなくて…その、お馬さんに乗れるなんて楽しみです!」
エマは二人の話を聞いて、つい興奮を抑えられない様子で喋ってしまった。