第10章 翻弄される
「エマ、とりあえずここに座りなさい。」
「はい…」
エマは出来ることなら今すぐこの場から逃げ出したい気分だったが、勤務中にいくら何でもそれは身勝手だと思い、おずおずとエルヴィンの隣に腰を下ろした。
こんな時でも真面目な性格の自分が少し嫌になる。
「リヴァイ、明日の予算審議会なんだが、エマも連れて行こうと思う。」
「は?」
エマは相変わらず俯いたまま先程のことで頭の中をいっぱいいっぱいにしていると、向かい側からリヴァイの間の抜けた声が耳に入って、ようやくその顔を少し上げる。
すると向かいに座るリヴァイが珍しく驚いた顔をしているのが見えた。
「お前…何考えてやがる。そんな場所にわざわざこいつを連れて行く必要があるか?」
「昨日今日と彼女の働きぶりを見させてもらったが、リヴァイが絶賛する理由がよく分かった。明日彼女を連れて行って、ぜひ視野を広げてみてもらいたくてな。
それにエマもここへ来て一ヶ月弱、ずっとこの兵舎内にいるだろう?一度兵舎の外も見せてやりたい。」
「お前の言い分は分かったが、明日は上もかなり来るんだぞ。今まで秘書など連れていくことのなかったお前がいきなりこいつを従えて現れて、もし誰かに余計な詮索でもされたらどうする?」
「その辺は私が上手くやるから心配するな。」
珍しく慌てているリヴァイに対してあくまで冷静沈着なエルヴィンに、リヴァイは面白くなさそうに舌打ちをした。
「ヘマするなよ?余計な面倒事を抱えるのだけは御免だからな。」
「そうならないよう最善は尽くさせてもらう。」
「あ、あの!」
いきなり目の前で繰り広げられる自分の話に、エマは思わず声を上げた。
エルヴィンとリヴァイは一斉に彼女に注視する。
「え…えと、私は明日どこに行くんですか?その、予算審議会とは…」
エマは話の内容が半分も分からず、不安な表情で浮かんだ疑問を口にした。