第10章 翻弄される
「……痛々しい。こんなになるまで無理をさせて、すまなかった。」
エルヴィンが喋れば、彼の唾液で濡れそぼった指に吐息が当たり、エマは思わず身体をゾクリとさせてしまう。
指を舐められているだけなのに、その動きは何故だかとても官能的だった。
舌を這わせながら上目遣いで自分を見るエルヴィンと目が合えば、エマの顔は耳まで真っ赤に染め上がってしまう。
「あ、あの……」
蚊の鳴くような声でやんわりと制止しようとするが、彼の舌は止まることなくエマの指を舐め回し続ける。
痛々しい血豆部分だけでなく、指全体に舌先を這わされ、時には指ごとすっぽりエルヴィンの口内に収められて唇を離す時には艶めかしいリップ音が鳴った。
エマは硬直し、舐められている指一本でさえも一ミリも動かせなくなってしまった。
しかしその時、団長室のドアが開く音がして、エルヴィンは動きを止め目線だけ扉へ向けた。
「こんなところでそういうことするなら鍵くらい閉めておけよ。」
「リヴァイこそ、ノックしてくれと前から言っているだろう。」
エルヴィンはため息混じりにそう言いながら、エマの手を解放した。
俯いたまま顔を上げることができず立ち尽くすエマ。
リヴァイはエルヴィンの向かいのソファにドカッと座ると、持ってきた書類をテーブルに置いた。
「今日締切の分だ。」
「あぁ、助かる。」
下を向いているせいで二人の表情は見えないが、エルヴィンもリヴァイも声は落ち着いていることは分かる。
「エマ、大丈夫か?」
エルヴィンはエマを覗き込むが、
「………大丈夫です。」
エルヴィンの顔を見ることは出来ず、下を向いたまま小さな声で返事をした。
「おい、あんまりエマを虐めるんじゃねぇぞ。」
「虐めたつもりはない。彼女の手を労わっていただけだ。」
「ハッ、どうだかな。」
いや、ほんと全然大丈夫じゃない。
団長に突然あんなことをされたかと思ったら、それをまさか兵長に見られてしまうなんて…
どんな顔をして二人の顔を見ればいいのか分からない。
それに…
何で二人ともこんなに落ち着いてるの?
私がおかしいの?