第10章 翻弄される
エルヴィンはその眩しいほどの笑顔に思わず抱きしめたくなる衝動に駆られたが、それは抑えてエマの座る向かい側のソファへ腰を下ろした。
「私も君もちょうどキリがついたところだし、少し休憩しようか。」
「あ、はい!では、紅茶を淹れてきますね!」
「それなら今日は私が淹れるよ。」
そう言って再び腰を上げようとするエルヴィンを、エマの手が制止した。
「団長、今日はかなりお疲れのように見えます。お茶は私が淹れるのでゆっくりしていてください。」
「そうか?…でも君が言うならきっとそんな顔をしているんだろうな。何から何まで悪いね。」
「私に出来ることなら何でも言ってくださいと言いましたよね?だから気にしないでください。」
「あぁ、そうだったね。ありがとう。」
エマはエルヴィンに優しく言うとキッチンへと向かった。
エルヴィンはエマがキッチンに立っている間、言われた通り少し体を休めようとソファの背もたれに体を預けて目を瞑っていた。
しばらくすると、ふわりと紅茶の良い香りが漂う。
「どうぞ。」
エマはカップをエルヴィンの前に置くと、ティーポットの紅茶をカップへと注いでいく。
「ありがとう。」
エルヴィンは礼を言いその光景を眺めていると、あることに気がついた。
「その手、どうしたんだ?」
エマの右手中指に出来た大きな血豆を見て問うエルヴィン。
「あ、これ…ずっとペンを握ってたせいか血豆ができちゃって。」
「…余程酷使させてしまったんだな…すまない。痛いだろう?」
エルヴィンは心配そうにエマの手を見つめていた。
「少し痛むくらいなので平気ですよ!そのうち治ります!」
エマは中指を軽く摩りながら明るく答えるが、彼は依然として心配そうである。
そしてエマの右手に落としていた視線を一瞬彼女の顔へ向けたかと思うと、突然その手を優しく掴み自分に引き寄せた。
次の瞬間、エマの指先は感じたことの無い感覚を覚える。
「だ、だんちょう…?」
エマの小さくて細い指に、生暖かい舌が這っていたのである。