第8章 エルヴィンの憂鬱
「休憩…だと?」
「執務室から自室まで遠いので、ちょっと休憩です。」
悪戯な笑みを見せてそう言うエマに、リヴァイは悪くないと思いながら素直に従った。
「夜は冷えますね。」
「にしては嬉しそうな顔してるじゃねぇか。」
「フフ、兵長とお話するのが楽しくて。」
真冬の夜は寒い。
だが、エマはリヴァイとこうして会話が出来ることが嬉しくて、寒さなんて実際あまり気にならなかった。
リヴァイはそんなエマを見て、また昨夜の“兵長と居る時が一番居心地が良いんです”という彼女の言葉を思い出し、僅かに頬を緩めていた。
「そういや、エルヴィンには何で呼び出されたんだ?」
「あ、それはですね…」
エマはミケとモブリットの話を説明した。
「そうか。ミケのことは俺も大丈夫かと思ってたが、まさか本当に当てられるとはな。」
「私もびっくりです。ミケさんて前世は優秀な警察犬だったのかな。」
「けいさつけん…?」
「あ、街の治安を守る人のことをこっちでは警察って言うんです。で、その警察の元で犯人の匂いを鍵分けたり人を匂いで捜索したりできる賢い犬がいるんです。」
「ほう。ならこっちでいうと前世は憲兵の犬だったってことか……フッ」
リヴァイは自分で言ったことが面白かったのか笑い声を漏らした。
「兵長、その言い方は語弊がありますよ。」
「お前だって笑っちまってるじゃねぇか。」
これではどっちもミケに失礼である。
「それで?エルヴィンの話はそれだけだったのか?」
「え?あ、はい!…そうですよ?」
その後も少しの間リヴァイとの時間を楽しんでいると、突然思い出したようにまた尋ねられた。
不意打ちの二度目の質問に、エルヴィンに抱きしめられたことが頭をよぎって一瞬焦ったが、リヴァイには努めて何もないことをアピールする。
しかし顔を向けた時、さっきまで柔らかな表情を作っていた三白眼は鋭く彼女を見据えていたのだ。
目が合うと僅かに体が揺れる。
動揺が滲み出てしまいそうになる。
「……本当か?」
少し間をおいて聞き直してくるリヴァイに対して、思わず目線を泳がせてしまった。
「フッ…お前は嘘が下手だな。」