第8章 エルヴィンの憂鬱
「リヴァイ兵長。」
エルヴィンの元から自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、執務室から出てきたリヴァイとちょうど出くわした。
「休暇日なのにこんな所にいるなんて珍しいな。」
「はい。エルヴィン団長に呼ばれて。兵長こそ、お休みなのにお仕事ですか?」
「あぁ、少しな。」
顔をじっと見つめられたので、“何でしょうか?!”と慌てしまったが、リヴァイは顔色ひとつ変えず続ける。
「もう体調はいいのか?」
「はい!おかげさまで、朝にはスッキリでした。」
「あんなに強い酒飲んで二日酔いしないなんて、やっぱりいける口なのかもな。」
「でも兵長や団長には負けると思いますよ。」
「俺がいつ酒に強いと言った?」
「え…何となく見た目で?」
エマが首をかしげながら言うと、リヴァイは小さく笑って言う。
「俺はそんなに酒は強くない。嫌いじゃないがな。だからクソメガネの持ってくる怪しげな酒はいつも死ぬ気で拒否してる」
「え?!そうだったんですか!」
これは意外だ。
人類最強でも最強になれない部類があるんだ…と、ハンジに酒を勧められて必死に拒否するリヴァイを想像しながら思った。
何事もなくリヴァイが廊下を歩き始めると、エマはハッとしてすぐさま後ろをついて行った。
「エルヴィンは二日酔だったか?」
「いえ、元気そうでしたよ。」
「そうか。まぁあいつは大丈夫だろうな。」
「団長本当はお酒強いんですか?」
「あいつは元々強い上に仕事上の付き合いも多いから自然と鍛えられてんだろ。昨日は久しぶりにあんな状態なのを見たがな。」
幹部の執務室や会議室が並ぶ長い廊下を、たわいもない話をしながら歩く。
エマは昨日リヴァイの部屋であった出来事をつい忘れてしまいそうになるくらい、その何気ない時間が楽しいと感じていた。
「あぁそれとクソメガネにはさっきよく言っておいてやったから、明日飛んでくると思うぞ。」
「あはは、分かりました。慰めておきますね。」
「慰めるか、お前は甘いな。」
「ハンジさんには悪気があった訳じゃないので何も怒ることはないですよ。」
エマは眉間に皺を寄せているリヴァイに向かってニッコリ笑うと、目の前の中庭を指さして言った。
「兵長、ちょっと休憩しませんか?」