第8章 エルヴィンの憂鬱
「もう大丈夫だ。すまないね。」
「団長、さっきから謝りすぎです!私なら平気なので気になさらないでください。」
相変わらず気持ちは落ち着かないが、突然抱きしめられたかと思えばじっと黙って何かを考え込んだりして、エルヴィンの方が心配になってしまった。
だからエルヴィンにはなるべく動揺を見せないように振舞う。
「はは、確かに謝りすぎだな…だが平気と言われるのも少し悲しいな。」
エルヴィンは軽く自嘲しながら冗談混じりに言う。
「やっ、あの、もちろんびっくりはしたんですけど、その…」
「無理に何か言う必要はないよ。でも良かった、突き飛ばされたりしなくて。」
「そんなこと…!団長の疲れが少しでも癒えるなら私にとっても、その…嬉しいですし。」
エマはエルヴィンへ屈託のない笑顔を向けた。
あぁ…君は本当に純粋な子だ。
純粋が故に知らぬ間にこうして俺を虜にしてしまうんだから。
俺だけじゃない、リヴァイをはじめ他の者だって同じようにエマに惹かれている可能性だって十分にある。
君をいつまでも野放しにしておくと、こちらが持たなくなりそうだ。
「エマは本当に優しいんだね、ありがとう。おかげさまでだいぶ疲れも癒えたよ。」
「それなら良かったです…!」
疲れが癒えたのは本当だったが、エルヴィンの心の方はだいぶ翻弄されてしまっていた。
一方のエマは最初こそ彼の言動にかなり動揺させられたが、いつもの調子に戻ったエルヴィンを見て安心した。
それにエルヴィンを少しでも癒し、助けることができたのかと思うと、自然と嬉しい気持ちが前に出たのだった。