第2章 近づく二人の距離
食堂では1人、今日の当番の女性が片付けをしていた。
「忙しいところ、すみません。ホットミルクを貰いたいのですが。」
「ちょっと手が放せないんだ、奥の冷蔵庫に牛乳入ってるから、自分でやってくれる?」
「…はい、ありがとうございます。」
「これからも、飲みたい時は遠慮なく言いな?勝手に飲んでも構わないし。」
「はいっ!」
嬉しそうに微笑むリラの顔を見て、食堂の女性の顔も綻んだ。
(可愛い子だこと…)
「んで、サボ。あんたは?」
「俺は…腹減ったなーっと…はははっ…」
苦し紛れの言い訳だ。リラが気になっての様子見だ、なんて言えるはずもない。
「あんなに食べたのに?どんな身体してるんだか。朝まで我慢しな。」
ホットミルクを作るリラを横目に見ながら、二人はそんなやり取りをしていた。
「サボさんも、飲みます?身体温まるし、少しはお腹に溜まりますよ?」
にっこりと微笑みかけられ、その笑顔に思わず頷いた。
「はい、じゃあこれ、先にどうぞ。」
サボは、両手で渡されたカップを、受け取った。
「ありがとう。」
一口啜った途端に、甘い味が口の中に広がった。
「美味いな。」
身体がじわっと温まってきた。甘くて優しい味に、サボの心も温まっていく。
「甘いでしょう?」
リラが自分の分を作って、サボの隣に座った。
「眠れない時、こうしてホットミルクをよく飲むんです。身体も心も温まって、落ち着いて眠れるから。」
「来たばかりだもんな。慣れない所で寝ろ、なんて言われても眠れるわけないよな~。」
「……それもありますが、眠っている間に連れていかれそうになったこともあって…心から安心して眠れたことがないの……」
心做しか、声が震えてるように聞こえたサボは、無意識に彼女の頭を撫でていた。
(また…心臓に悪いよ……ドキドキするじゃない……)
「寝てる間に?!それ、よく助かったね。」
「友達が…助けてくれたんです…」
(そういえば、あの人もよく食べるんだったっけ……)
リラは、その友達のことを思い出しながら、ホットミルクをゆっくりと飲んだ。
サボはその"友達"が男なのか、女なのかが気になった。
(連れ去る所を助けられるくらいだ、男だろうな……)
そう、自分の中で勝手に結論づけた。