第5章 "過去"というライバル
「俺の知らないリラを知ってる人には、俺も嫉妬するな〜。だから、言いたいことはよく分かるよ。過去がライバルのようなもんだな。でも、これから二人で過ごす時間の方が大切だし、知らないことはこれから知っていけばいい。俺の知らないリラを知りたい……」
サボは、よしよしと優しく彼女の頭を撫で、リラの潤んだ瞳をしっかり見つめ、言葉を続ける。
「嫉妬してくれて嬉しいよ。コアラとは、仕事上のパートナーでしかない。気にするなと言っても無理だろうけど、俺はコアラのことはそんな風にしか思わない。アイツは、スキンシップ多いからな。気になったんだろう。それと、場違いなんて思うこともない。俺の恋人はリラなんだ。誰がなんと言おうとね。言いたい奴には言わせておけばいい。」
サボの手は、リラの頭から、頬に添えられていた。
「うん。ありがとう。私もサボを知りたい…
コアラさんからサボのことを聞くのが辛かった……サボは女の子に手を出すのが早い、とか…そんなことまで知ってるの?って思って…」
「コアラ…余計なことを…ハハッ、しかしひどい言われようだな、まったく。これでもアイツの上司なんだけど…でも、本気で惚れた女には、なかなか手をだせないもんだよ。」
頬に触れていた手を、リラの小さな頭の後ろに回し、引き寄せて強く抱きしめた。
「本気で惚れた人……いた?」
「あぁ。いるよ。」
「……どんな人?」
「今抱きしめてる女。」
「……え。私?」
「そうだよ。だから、みんなにきちんと認めてもらう。ドラゴンさんには、話したから。」
「サボなら大切にしてくれるから、安心しなさいって言われたわ。」
リラは、彼の温かな身体に抱き込まれ、安堵を感じていた。そして彼の背中に腕を回し、服を掴んだ。
「ドラゴンさんの言う通りだ。大切にする。今夜もリラと寝たい。そばで一緒に寝てくれるだけでいい。」
リラの髪にキスを落としたその時、扉を叩く音が二人に届く。
「二人とも、夕食だって!早く来てね!」
外からコアラが声を掛けていた。
サボがリラの部屋にいることがバレていて、なんだか恥ずかしかった。
「行こう、腹減った……」
二人は肩を並べて、手を繋いで食堂へと向かった。