第5章 "過去"というライバル
部屋に戻ったリラは、ベッドに膝を抱えて座った。
「なんだか……場違いよね……」
そう呟いたリラの瞳には、涙が滲んでいた。
大きくため息をつき、膝に顔を埋めた。
革命軍新参者の自分がサボの恋人なんて、堂々としていていいのだろうか。
サボは優しいし、強いから、モテる。
革命軍の中には若い女性たちも多くいて、綺麗な人も多い。
そんな人たちを差し置いて、自分が恋人なんて、よく思ってない人もいるはずだ、と考えていた時だった。
……トントン…
扉を叩く音に、サトは涙を拭った。
「俺だ、入るよ?」
ガチャリと扉が開いて、サボが入ってきた。
サボは、彼女の瞳が赤いことにすぐに気がつき、腕を引っ張り抱き寄せた。
「なにを泣いてた?」
「…泣いてない……よ。」
すると、サボが身体を離し、リラの肩に両手を置いて顔を覗き込んだ。
「初日の電伝虫の時もそう。今もそう。泣いてただろ?どうして泣く?」
「……寂しかったからと、いまは、嬉しいから…」
「そんなんじゃないよな?リラ。ちゃんと理由を教えて欲しい。せっかく頑張って帰ってきて、恋人が泣いてたら、気になるだろ?」
「……」
下を向いたまま、何も答えないリラに、サボが言う。
「顔を上げて俺の目を見ろ。」
真剣な声のサボの視線を感じ、言われた通りにリラは顔を上げてサボの目を見た。
「リラ…」
サボの顔が近づき、ふわりと唇を塞いだ。
ゆっくりと唇を離し、リラをじっと見つめると、彼女は観念したのか、ゆっくりと口を開きはじめた。
「……こんなこと言って、嫌いにならない?」
「ならないよ、言ってごらん?」
「…サボとコアラさんて、仲が良いよね。コアラさんは、なんでもサボのことを知ってて。私の知らないサボを知っていて羨ましいなって。嫉妬してる自分に気がついて、自分が嫌になったの。どうしたって埋まらない時間なのに……それに、私サボの恋人としてここにいていいのかなって。さっきも、皆がコソコソ話してた。場違いな気がして……」
ウンウンと頷きながら、黙ってリラの話を聞いていたサボは、彼女の綺麗な瞳からポロポロと溢れ出る涙を優しく、キスで拭ったのだった。