第5章 "過去"というライバル
バルティゴでは、ドラゴン以外の皆が迎えてくれていた。
「参謀総長、おかえりなさい!」
「サボくん!おかえりー!」
コアラがサボに飛びついた。
そんな様子をリラは見ていることしか出来なかった。
サボとコアラの間にあるものは、自分の知らない、踏み込めないものがあるからだった。
「コアラ、ただいま!」
サボは飛びついているコアラの頭に軽く手を置き、コアラを引き離した後、リラの側に寄ってきた。
「リラ、ただいま。」
そう言って彼女を引き寄せ抱きしめた。
「おかえりなさい、サボ。」
リラも、サボの背中に腕を回し、ギュッと力を込める。
「会いたかった……」
サボに耳元で囁かれ、痛いほど、強く抱きしめられた。
「私も会いたかった…寂しかったんだから…」
サボの胸に顔を埋め、声を震わせながら呟いた。
毎日電伝虫がかかってきて声が聞けていたとはいえ、顔が見れないことや、温もりを感じられないことはやっぱり寂しいのだ。
それを聞いたサボの顔は、思いっきり緩んでいる。
(そんな可愛いこと、言うなよ……)
行く前に身体に刻みつけた彼女の温もりが、サボの疲れた身体を癒してくれ……るはずだったが。
「おい、いつまで抱きしめてる!早くドラゴンさんのとこに行くぞ!!」
軍隊長カラスに首根っこを捕まれ、サボはリラから引き離されてしまった。
「カラス、何すんだよ!せっかく恋人に会えたってのに!」
「あとでゆっくりできるだろ!なにが一番大事か考えろ!」
二人の言い争う声がバルティゴに響く。
まったく、どっちが参謀総長か分からない。
サボは、軍隊長にズルズルと引きずられながら、リラに大声で叫んだ。
「リラ、あとで部屋に行くからな!待ってろよ!」
それによりリラは皆の注目を浴びることとなり、恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
皆が自分を見ながらコソコソと話す様子が目に入った。
リラはなんだかいたたまれなくなり、ここにいてはいけない気がして、足早に部屋へ戻った。
コアラはそんな彼女の様子に気が付き、リラに声をかけたが、その声はリラには届かなかった。