第5章 "過去"というライバル
「え、だって一緒のベッドに寝て、何もしないなんて……サボくんじゃない……」
小声で呟くコアラ。
「…どういうことですか?」
リラは聞き返した。
よく考えて聞けばコアラは結構酷いことを言っているのだが。
「サボくんて、結構女の子に手を出すの早いから、ちょっと意外だった。」
そんなことを知ってるコアラさんて…。
「確かにキスは早かったですよ…。」
「そうだよね。でも、その先に行ってない。」
「……コアラさんて、サボのことよく知ってるんですね。女の子に手を出すのが早いとか、そんなことまで。」
「まぁね。サボくんが彼女と別れたりすると、いつも慰めるのは、私だから。相談されるの。」
リラが知ってるサボよりも、昔の、過去のサボのことを知ってるコアラが羨ましいと思った。
そして、サボがコアラにとても信頼を寄せていることも感じた。
二人の間にある関係性は、ただの仕事上のものではないと。
サボと出会い、相思相愛にはなったが、知らないことの方が多い。
まだ出会って日が浅いのだから、これから知っていけばいいことはわかっている。
それでも、自分の知らない彼を、コアラが知っていることがなんとなく嫌だった。
なんだか分からない、得体の知れない黒い感情が、リラを押し潰そうとしている。
「……そうなんですか……」
そう言って、リラはそれ以上なにも言わず、食事を済ませ、部屋に戻った。
その後、気を紛らわそうと家事全般を教えて貰い、夜になった。
自分の部屋でリラは、コアラから聞くサボの過去の話を、うわの空で聞いていた。
「…リラちゃん、聞いてる?」
「…はい、聞いてます…コアラさん、私、お風呂の時間だからそろそろ準備してもいいですか?」
もうそれ以上聞きたくなくて、リラはコアラの話を終わらせようとした。
するとコアラが、一緒に入ろう、と言ってきた。
お風呂でも聞かされると思うと、少しだけ、うんざりだった。
でも、断る理由を見つけられず、結局一緒にお風呂に入ることになる。
一緒にお風呂に入ると、案の定、サボの過去の恋愛話ばかりだった。
リラは、上せるからと先に出て、部屋へと戻った。