第4章 わかるんだ【影浦】
空閑と話をしていた影浦は、不意に肌に触れた感覚にびくりと身体を震わせた。
「?どうした?かげうら先輩」
「……」
その表情はなんとも言えない複雑なもの。下から見上げた空閑は首を傾げ、そのまま影浦の視線の先を見た。そこには一人の女性隊員。見覚えは無い。彼女はにまーっと笑みを浮かべると、つかつかと歩み寄って来た。
「てめぇ…急にキモチワリィもんぶつけてくんなよ…」
「急じゃなかったらいいのか、わかった」
「よくねぇ」
その会話に空閑はますます首を傾げる。
「気持ち悪いもの?ぶつけるということはかげうら先輩に対する感情なのだろうけど、どういうことだ?」
思わず口に出た疑問の声を耳にして、彼女がくるりと空閑に顔を向ける。そしてにっと笑った。
「あたしがこいつに向けるのは悪意じゃないからだよ」
「ふむ、よい感情ということか?それをぶつけられてかげうら先輩は照れてるのか」
「なっ、」
「よくわかってるじゃないか」
言って彼女は自分より下にある頭をわしゃわしゃと撫でる。
「あんた、噂の空閑遊真だね?」
「うん。あんたは?」
「あたしは村雨砂羽。よろしく、遊真」
「よろしく、むらさめ先輩」
満足そうに頷いた砂羽は、不意に視界にいた影浦の表情が変わった事に気づいて目を細めた。苛立ちの色が見え、その原因も把握する。
「むらさめ先輩?」
「…チッ。おい待て村雨、おい!」
影浦の静止など聞く耳を持たず、砂羽がずかずかと歩いて行く。
「ゲッ、村雨」
小さく声を上げた男の前で止まり、鋭い眼光を彼に向けて言い放った。
「てめぇ、ぶち抜くぞ」
「ひっ…!」
ドスの効いた声で凄まれ、男は一目散に逃げ去って行った。その様子を見ていた影浦は溜息をつき、空閑は目をぱちくりと瞬かせていた。スッキリした顔で二人の元に戻った砂羽に、空閑が問う。
「なんでわかったの?かげうら先輩に悪意が向けられてるって。そういうサイドエフェクト?」
「サイドエフェクトなんかじゃないよ」
にっと笑う砂羽に首を傾げる。彼女はそのまま続けた。
「ただ〝わかる〟だけだ」
「…ふーん、そっか」
ちらと影浦を見れば、なんとも言えぬ表情。晴れ晴れといい気はしないが、悪い気もしていない。そんなもんか、と空閑は納得して笑ったのだった。