第23章 現【分隊長ハンジさん】
自分から訪ねておきながらできれば寝ていてくれと思う程、今日の私はあまのじゃくで可笑しい。
「はい」
そんな思いも虚しく、杖をついて少し歩きづらそうな彼女が扉を開けた。
「やあ、なんか飲みたいなって。上がってもいい?」
そんな気分じゃなかったけど、口角を上げて精一杯笑顔に見えるように努めた。
彼女は何度も頷くと嬉しそうに私を招き入れた。
新兵の頃からずっと、彼女が私に対して好意的なのは分かっていた。
私が微笑めば、もしかしたら命令すれば、この子は死んでさえくれるのかもしれない。
そんな自惚れた確信を持つほど。
「……なまえも飲む?」
「ハンジさん今日ペース早いですよね。……じゃあちょっとだけ」
怪我人に勧めるのも如何なものかと思うが、そんな自制心はもう残っていなかった。
ふわふわとした心地良い感覚が私全体を支配している。
「えっ、強!」
「アハハ!」
強めの酒に眉を顰めて舌を突き出す彼女に思わず笑ってしまう。
エルヴィン達に付き合わされる時もこの子はジュースみたいな酒ばっかり飲んでたっけ。
「お子様………」
ポツリと呟くと彼女が譲ってくれた椅子から立ち上がり、ベッド腰掛ける彼女へ近づいた。
鼻先が触れるくらい近づくと甘い香りがした。
彼女が戸惑っていることは顔を見なくてもわかる。
彼女の前に膝をつくと、身体を強く抱き締めた。鍛えられた身体の中でも柔らかい部分に顔を埋めるときっと私のせいで乱れた心音が聞こえてくる。
「ハンジ、さんっ、お酒臭いし、結構酔ってる……?」
「そーだね、酔ってる」
「もう寝た方がいいんじゃ………」
「ねえ、なまえ」
自然と、より一層強く回した腕に力を込めた。
「……私、私の人生からなまえがいなくなっちゃうのが嫌だ、なぁ」
「あの時…君が飛んできて、私のせいで君が死んじゃうなんて、そんなの後味悪すぎて一生恨みそうと思った。それでも君は信煙弾が上がっても上がらなくても私の為に、飛んできて、心臓まで捧げるんでしょ?でも居なくなってしまうのは嫌だって、」
我ながら支離滅裂な感情の吐露。
全部酔いのせいにして、こんな事言われても君は困るだろうけど、ごめん、許して。
素面で君の顔を見ながらなんて絶対に言えないのに。