第24章 格好をつけたい【現パロハンジさん】
……これはマズイ。
最近の彼女の流行りは定額サービスで映画を見ること。
今日も案の定ソファーの定位置についた彼女はリモコンの電源ボタンを押したわけで。
血肉が飛び交うような海外ホラーがお気に入りらしいがそれを見たかと思えば次の日にはアニメ、恋愛映画、SF、またある日はミュージカルを見たり……。
色んな物に興味があるんだなと思いながら隣で同じ時間を過ごす訳だけど、今日は感動物らしい。
不意打ちだった。
なんとなしに見ていたはずだったのにいつの間にかどんどん目頭が熱くなってくる。
鼻腔をくすぐるそれに鼻を啜ると、その音に液晶を見つめていた彼女の視線がこちらへ移された。
「泣いてる?」
「…………泣いてない」
身体の向きまでこちらへ向けた彼女は、もう映画の続きなど見ておらず、私の顔を覗き込んでくる。
思わず顔ごと視線を背けた。
「泣いてるよね?」
「だから、泣いてないってば」
「あはは、泣いてる癖に」
「……泣いてないしバカ!」
少しでも表情を隠そうとする腕すら掴んで、身体ごと乗り上げてくるからついムキになってしまう。
目の前のなまえは満足げに笑っている。
この表情は知ってる。次に続く言葉も。
「かわいい」
一回りも離れた年上のどこが可愛いというのか。自分よりもはるかに若い彼女の方が可愛いなんて言葉、ピッタリだろうに。
……というかそもそもいつもはそっちが泣かされる側のくせに。
そんな悪態もなまえの熱の篭った表情に全て解かされる。
本気で私のことが可愛くて堪らなさそうなもはや慈しみさえ感じる、本当に心の底から満足そうな顔。
そんな顔を見てるとこっちまで小っ恥ずかしくて脳に熱が籠って来るのがわかるから。
ああ、こんなにも感情を振り回されてカッコがつかない。いや元々威厳なんてあってないようなもので、付き合って長いのにまだカッコをつけていたいのはただの私のエゴだ。
それでも、君に絆されるならいつだって悪い気はしない。
いつの間にか眼鏡は外され、濡れた目尻に触れてくる彼女の指先を甘んじて受け入れるとさらに満足そうに表情が緩められる。
そんな惚けた顔は私だけの前でしていて欲しい。
そうはいってもやられっぱなしも性にあわないし、仕返しをすることは心に誓いながら落とされる唇に瞳を閉じた。