第23章 現【分隊長ハンジさん】
「なにやってんの!馬鹿!!
アンタが居なくなったら、わた、しは……」
私は?
居なくなったら?
なんだ?
この組織にいる限り別れなんて付き物じゃないか、死なんていつも隣り合わせで。
それでもいつだって別れは悲しくて慣れない。
居なくならないで、なんて、
望むだけならまだしも、確約できないことを求めるなんてタブーだ。
この子に限定することじゃないのに、なんで。
何だか無性にムシャクシャした。
その勢いのまま、呆気に取られている彼女の腕を強引に掴む。
「痛っ」
「足、挫いたの?」
「……ごめんなさい」
ごめんなさい、何が?
ヘマをしてごめんない? 私の為に起きた負傷なのに?君が謝る必要なんてあるの?
それなら、こんな状況にしてしまった私の方こそごめんなさい、だ。
蒸発する血に塗れたせいで怪我の度合いも分からない彼女を、無性にその頬に触れて、引き寄せて抱き締めたくなった。
でも、できなかった。
「馬には乗れる? 無理そうなら私の後ろに。君の馬も牽引していくから。
陣形からかなり離れちゃった、戻ろう」
離れたのは誰のせいだ。
ありがとうの一言でも言ってやればいいのに。
私今、どんな表情してるんだろう。
助けて貰っておきながらイライラしている私は君にはどう写る?
結局、自力で馬に乗るのは難しい彼女を背に抱きながら陣形に戻った。
彼女は何も言わなかったけど、落ちるからと回させた腕から伝わってくる体温の感覚は悪くなくて、むしろこのままずっと続けばいいのにと思うくらい心地よかった。
無事に壁内へ戻ったあと、エルヴィンに二人で報告へ向かった。
自身の担当箇所からの勝手な逸脱について咎められはしたものの、信煙弾が上がっていたこと、彼女が反省していること、何より死者が出なかったことからもそこまでのお咎めはなかった。
それよりも私の心を苛立たせたのは「よくやった」と彼女へ向けられたエルヴィンの表情で。
私はそれを簡単にできないのは何でだろう。
ごめん。
ありがとう。
よくやった。
普段なら言えるのに。
私はどれも彼女に対して言ってやることが出来なかった。
普段自分から飲むことなどない強めのワインを手に、気づけば彼女の部屋の前に来ていた。
遠慮がちにノックする。
寝てたら帰って私も寝よう。