第22章 狡くてゴメンね【分隊長ハンジさん・R18】
「私にすればいいのに」
触れるだけ、そっと重なった物がゆっくり離れていくとハンジの顔が再び視界に入ってくる。
その顔が嫌に色っぽい。
これが何なのか理解できなかった。
いや、したくなかった。
呆然としていると、ハンジに腕を引かれ歩かされる。
「涙も引いたみたいだ。さっ、外は寒いし風邪ひいちゃうよ」
まるで何事もなかったかのように廊下を突き進むハンジに、今の出来事はまるで夢か幻かと錯覚しそうになる。
”「私にすればいいのに」”
その言葉ははっきりと耳に残って離れない。
「さ、入って」
「え・・・ここって」
「私の部屋」
何でもないように答えるハンジにやっぱりさっきのことは幻だったのではないかと思えてくる。
私のことが心配だから、今日は一緒にいてくれるってこと?
「ハンジは優しいんだね」
「優しさだけであんなことまですると思う?」
思わずハンジを見上げると、その表情は真剣そのものだ。
「私は、・・・ここじゃなんだから入って」
途中で言葉を止めるハンジ。
普段、仕事以外で見ることのない真剣な表情に思わず頷くと、誘われるままにハンジの私室へ足を踏み入れた。
パタン、と扉が閉まる音がやけに響いて聞こえる。
扉を背に私を立たせると、彼女に似合わず遠慮がちに手に触れてきた。
「私は、なまえのことが好きだよ」
思わず瞳を見開くとハンジを見つめる。
その顔も、触れてくる手も汗ばんでいて、柄にもなく緊張しているのだと分かる。
この状況で、それを本気ではないと捉えることなどできない。
ハンジは本当に私のことが・・・・
「最初は興味本位だったんだ。
でも、それを見てるうちにだんだん・・・・なまえがエルヴィンのことを好きなのはわかってる」
彼の名前に鼻の奥がツンとする。
「でも、なまえには笑っててほしいなって」
片手が離され、頬に触れてくる。
その手はただひたすらに優しく、慈しんでくれているのだと痛いほど分かった。
「私なら、寂しさを埋めてあげることができる」
ハンジの顔がゆっくりと近づいてくる。
また、キスされるのかと思わず目を瞑った。
しかし、ハンジの唇はなまえの耳朶に触れた。
「寂しいんでしょ?」