第22章 狡くてゴメンね【分隊長ハンジさん・R18】
一応、エルヴィンの秘書のような立ち位置のなまえは大抵の予定は本人から聞かされている。
貴族の夜会に呼ばれて、とか、兵団の上層部と情報収集の為に飲みに行くとか。
今日は何も知らされていない。
何故、という気持ちに頭が真っ白になりそうになる。
そうこうしているうちにエルヴィンはこちらに気づくこともなく馬車は出発してしまった。
「あの方向は・・・」
ハンジが首を傾げながら意味ありげに呟く。
「なに?」
「いや、なまえは知らない方が」
いつもなら勿体ぶることなどないハンジに多少の違和感とその答えに恐怖を感じるが、この状況で答えを急かさないという選択肢は存在しなかった。
「あの方向は・・・歓楽街の方だな、って思って」
「歓楽街・・・・」
ハンジの言葉を口の中で反芻する。
もういい大人だ、そこがどういう場所なのか、分からないわけはない。
エルヴィンもいい年をした立派な大人の男性だ。
”そういう欲”がないわけではないだろう。
もちろん、接待の場所がたまたまそこに位置しているという可能性だってある。
しかし、なまえの胸には「どうして教えてくれなかったんだろう」という気持ちが黒い渦を巻いていた。
今日早く返したのも、夜は言えない予定があったから?
それとも、たまたま時間ができたから?
じゃあ、私があそこで仕事を続けていればエルヴィンは行かなかったの?
今から他の女の人と・・・・・・
「っ」
「なまえ!?」
そう考えただけで泣きそうになる。
叶わなくても傍で力になれればいいなんてエゴだ。
本当は、私の醜い欲望の部分は行かないでって、嫌だって叫んでいる。
ハンジが心配そうにのぞき込んでくるが、酷い顔をしているだろうと思ってまともに見ることができない。
「大丈夫・・・じゃないよね」
エルヴィンへの気持ちを知っているハンジも困ったように眉をひそめている。
「ごめ、」
心配させまいと口を開こうとすると、堰を切ったように涙が溢れだした。
「あれ、おかしいなぁ」
「なまえ・・・」
何とか笑ってごまかそうとするも、大粒の涙がボロボロと溢れ出してくる。
止めようと思っても止まらなかった。