第22章 狡くてゴメンね【分隊長ハンジさん・R18】
部屋で黄昏ている間に結構時間が経ってしまったらしい。
すっかり暗くなってしまった空に、せっかく出てきたのだから今日はランニングだけして明日に備えようと思った。
誰もいない訓練場に立つとゆっくりストレッチを始める。
夜風が冷たくて気持ちいい。
やっぱり悩んでいるときは身体を動かすのが一番だ、なんて脳筋なことを考えていると背後から足音がした。
「あれ、なまえ?」
「ハンジっ、そっちこそどうしたの?」
声を聞いただけで分かる。
エルヴィン同様長年連れ添った仲間であるハンジが、なぜかなまえと同じようにこんな夜に訓練場に来ていた。
「今日は事務仕事がなかなか片付かなくてね、実験も一段落したことだし、少し走っておこうかと思って」
身体を動かさないとどうも眠る気になれなくて、と続けるハンジも兵士の鏡というべきか中々体力馬鹿だ。
事務仕事も実験も身体を動かさないとはいえ、体力は消耗されるだろうに。
「なまえは、エルヴィンのところの仕事はどうなの?」
「んー、変わらず、かな。相変わらずお偉いさん方は頭が固くて・・・」
なまえの言葉にハンジは思わず噴き出した。
二人で柔軟をしている為、なまえの背中をハンジが押している。
「ふふ、大変そうだね」
「ほんと、どうでもいい自慢話を聞かされるこっちの身にもなって欲しいよ」
その言葉にハンジが楽しそうに笑っているのが分かる。
「・・・エルヴィンとは、どうなの」
暫くの沈黙の後、ハンジがやけに神妙な声色で発した。
「えっ、どうって・・・何も変わらないよ?」
「そう」
ハンジは短く答えたが、背後に立っている為表情は伺えない。
振りむいてその表情を確かめようとした時、「あっ」とハンジが声を漏らした。
「あれって・・・・」
「なに?」
ハンジの目線の先へ視線を伸ばすと、そこにはまさに今話していた人物、エルヴィンが馬車に乗ろうとしていた。
「こんな時間からなんで・・・」
「正装をしているしどこかへ接待かな」
そんなことはエルヴィンの口から一言も聞いていない。