第22章 狡くてゴメンね【分隊長ハンジさん・R18】
エルヴィンとは彼にとってもなまえにとっても長い付き合いだ。
なまえが調査兵団に入団した時からすでにエルヴィンは分隊長で、頼れる先輩で、かっこいい大人の男だった。
決して他人に心の内全てをさらけ出している人ではないが、何年も一緒に過ごしているうちに名前で呼び合うほどにはお互い信頼している。
まるでエルヴィンの小間使いのように、重要書類からナンテコトない報告書まで抱えて毎日色んな兵団を行き来している。
”エルヴィン団長の代わり”、そんな名目で仕事に勤しめることがちょっとした誇りだ。
しかし、なまえはその気でもエルヴィンにその気がないことは長年隣に立ってきた中で分かっていた。
調査兵団の中でもエルヴィンに憧れるものは多い。
一度でいいから、エルヴィン団長と、なんて彼と寝ることをステータスのように語る女兵士もいる。
しかし、エルヴィンがそれらに応えているという話は一切聞かない。
賢いエルヴィンのことだからバレないようにしているんじゃないかとミケに相談してみたこともあったが、ミケ曰く「立場上兵団内での問題ごとは避けたいのではないか」、らしい。
その言葉からもエルヴィンが兵団内の女性に手を出していることはないとなまえの中で決着がついた。
だからこそ、”問題ごと”に発展するような存在であるなまえとは関係を持つことなど、むしろ恋人になることなど、夢のまた夢なのだ。
「はぁ・・・・」
いつもより早く帰され暇を持て余しているなまえは、そこまで考えて大きな溜息を吐いた。
分かってはいても、受け入れきれないのがムズかしいオトメゴコロというやつなのだ。
止めよう。
ずっと部屋で考えていたって暗い気持ちになるだけだ。
そうだ、まだ寝るまでには時間があるし自主訓練でもしよう。
毎日エルヴィンのために兵団内を行ったり来たりしているから、訓練に出られないことも多い。
壁外調査こそ調査兵団の本業! 次の壁外で腕がなまっているような所はたとえ死んでもエルヴィンには見せたくない。
なまえは部屋着の上から適当な上着を羽織ると、部屋を飛び出した。