第20章 気持ちに名前を付けるなら【分隊長ハンジさん】
もやもやした気持ちを抱えながらついに迎えた壁外調査当日。
未だこの気持ちの正体が私には分からなかった。
まるで部下を取られたかのような、そんな駄々をこねる子供のような気持ちは自分の中で到底認められなかった。
なまえは今も特別作戦班の中にいて、初陣となるエレンを励ましている。
「なまえと話しておかなくていいんですか?」
自然となまえに視線を送っている私にニファが困ったように笑いかける。
「この調査が終わってからにするよ。」
そう、この調査の真の目的は中継拠点の設置ではない。
エレンの他にいるであろう巨人化能力者の炙り出しと捕獲だ。
そのために何としてもエレンを守ることがリヴァイ率いる特別作戦班の任務。
この調査が成功に終わればなまえの任も解かれ、今までの日常が返ってくる。
その時の私はそう確信していた。
そんな私にニファは苦笑すると馬に跨った。
壁外に“絶対”なんてない事を知っていたのに。
「女型は食われた。だが、君は中身が食われるのを見たか」
エルヴィンのその言葉を聞いた時、まるで頭部を鈍器で殴られたような感覚に陥った。
「まさか・・・」
「ハンジ」
なまえが危ないと、無意識にトリガーに触れていた手をエルヴィンの低い言葉が制する。
視線を向けると彼の鋭い眼光が一層厳しさを増していた。
なまえが危ない。
女型の中身が立体起動装置をつけて兵士の中に紛れているとすれば、本部から離れた場所で待機している特別作戦班は葛藤の的だ。
「・・・でもそれは、エレンが巨人から出た時の状況を見る限りできそうもないと結論づけたはずでは?」
焦る頭で、そんなことはありえないと脳を納得させるように声を絞り出す。
しかし、それは呆気なくエルヴィンに論破されてしまった。
エルヴィンの言葉は正しい。
ただ、私はこんな時に彼女の傍へ駆けることもできない。
調査が終わってからなどとそんな悠長なことを言っている場合ではなかったのに。
今少しだけ、あの気持ちの正体に近づけた。
私は、
君との別れが怖くて堪らない。