第20章 気持ちに名前を付けるなら【分隊長ハンジさん】
兵団が壁外調査の準備に追われる中、廊下を歩いているなまえを見た。
傍にはエレンとペトラにエルド。
特別作戦班の一員として雑談をしながら笑い合っている姿は少し前まで私のすぐ隣で行われていた光景で。
なまえとは実験でも顔を合わせているし、別に久しぶりに顔を見たわけでもないのに、なんだかひどく懐かしくて、羨ましいような、はたまた妬ましいような、複雑な感情が胸の奥につっかえていた。
「ハンジさん!」
私の姿に気づいたようでなまえが名前を呼ぶと会釈してくる。
その横ではエレンも今にも敬礼しそうな勢いで仰々しく挨拶をしていた。
「今日はこっちに来てたんだね。」
「はい、兵長の掃除に必要な道具とついでにエレンに兵舎の案内も兼ねて」
「なまえの掃除はすごく綺麗で、俺らも助かってますよ。」
エルドの言葉に分かりやすく頬を緩めるなまえに仲間へ向けるものだと分かっていても、先程のどろどろとした感情がまた胸の奥から湧いてくる。
ペトラの「ずっと特別作戦班にいて欲しいくらい!」なんて言葉も何故だか素直に受け取れない。
どうしてこんなに苛立つのか自分でも分からなかった。
ただ、廊下を雑談しながら歩くのも、掃除をしてくれていたのも、全て、私の傍で行われていたのにと。
そちら側に行けないことが酷く苦しかった。
この苛立ちの理由は私には分からなかった。
「ふふ、特別作戦班はどこかの分隊と違って、書類が山の中に埋もれることもないし綺麗で過ごし易くて快適です。
私が戻るまでに執務室がとんでもないことになってないといいんですけど、なんて。」
「ん、ああ、そうだね・・・」
「ハンジさん?」
なまえの揶揄うような言葉に曖昧な返事しか返せないでいると不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?
忙しくて休めてないとか、」
「あはは、そんなことないよ!
次の実験で何しようかなって考えててそれに夢中で!」
傍にいた時は体調の心配なんて少しも口に出したことなんてなかったのに。
不思議そうな視線を向けてくるなまえに少しの罪悪感を感じて視線をそらした。
ああ、早くなまえの特別作戦班の任が解かれますように。