第20章 気持ちに名前を付けるなら【分隊長ハンジさん】
「なまえを特別作戦班に借りたい。」
リヴァイからそう言われたときは純粋に彼女の能力が評価されたのだと嬉しかった。
巨人になれるという少年、エレン・イェーガーの能力と彼自身の評価の任に就く部隊。
私自身も彼の巨人化実験には携わるし、今の状況と何ら変わらない。
ただ彼女の肩書が変わるだけで何の不便もないと思っていた。
「はあ・・・・せっかく午後からはエレンの実験ができるっていうのに」
「仕方ありませんよ。エレンの入団に新兵も入団して、次の壁外調査の書類と、やることは山積みですからね。」
「・・・早く実験したいなあ。ねぇなまえ、」
執務室で書類の山と格闘しているとき、不意に彼女の名前を呼んでしまう。
目線の先は普段彼女が立っている場所で、今は空虚しかない。
「分隊長・・・・?」
「ああ、ごめん。ついいつもの癖で・・・・。
なまえは特別作戦班でずーっとエレンと一緒! 彼のことも観察し放題だし羨ましいなあ、ね。モブリット。」
「え、あぁ、そうですね」
わざと羨むように大げさに声を出すとモブリットは不審に思っているようだが、午前中に終わらせなければならない書類を置くと忙しそうに部屋を出ていった。
なまえと分担して行っていた第四分隊の仕事を今は彼一人で行っているのだから、苦労もひとしおだろう。
実際、彼女が特別作戦班へ行ってから、一人一人の雑務が増えたこと以外これといった変化はない。
変化はないはずだが、彼女の面影を無意識に探してしまっている自分がいるようで。
彼女がいないことが何だか物足りない。
あの笑顔がないだけで周囲の雰囲気が暗くなってしまったように感じられるのだ。
仕事に対してこれといった不便はないが、慣れとは恐ろしいものだと思う。
といっても、これも特別作戦班の任務が終わるまでで、すぐに変わりない分隊の姿が戻ってくると思っていた。