第15章 溺れる【分隊長ハンジさん・R18】
「!?」
肩に馴れ馴れしく置かれた男性特有のゴツゴツした拳。
今まで他愛無い会話をしていた目の前の貴族が肩を抱き、身体を密着させていたのだ。
あまりに突然のことで、ハンジに思いを寄せていてそれまでの会話も気に掛けていなかったなまえは何も声が出せなかった。
それを肯定と受け取ったのか男はさらに馴れ馴れしく、腰に腕を回すと耳元に唇を寄せてきた。
「先ほど話していたバルコニーに行きませんか?
静かな場所で貴女とゆっくりお話がしたいのですが」
「え、えぇ・・・」
その間も無遠慮に腰を撫でてくる感覚が気持ち悪く寒気がする。
“明らかな誘い”だ、これは。
このままされるがまま付いていったら、十中八九そういうことになるだろう。
だが相手は貴族で。
無下に断り相手のプライドを傷つけては後々さらに面倒くさい。
そうだ。
酔ったふりをして離れてもらおうとなまえはわざと足をもたつかせた。
「すみません、少し体調が優れないみたいで。
一人で休みますので・・・」
「それは大変だ。ではなおのこと外の新鮮な空気を吸いに行きましょう。」
失敗した。
男は身体を支えようとさらに密着してくると人々を掻き分け進んでいく。
もしかしたら本当に親切心でやってくれているのかもしれないが、少しも酔っていないなまえは一刻も早くこの男の腕から逃れたかった。
それに夜会に参加すること自体反対していたハンジが、この状況を見たら。
何もなかったにせよ、男と二人きりで楽しそうだったねくらいの小言は絶対言われる。
絶対ハンジにだけは気づかれないよう俯いて歩いていると、突然お腹を冷たい感覚が襲った。
パシャ
それはドレスへみるみるうちに広がり大きな染みを作ると、スカートを伝いポタポタと綺麗に磨き上げられた床に染みを作った。
お酒を掛けられたのだと驚いて顔を上げると、目の前には数人の貴族と談笑をしていた見知った顔。
その顔に表情はなく、瞳は眼鏡越しに冷たくなまえと男を捉えている。
手に持ったグラスは傾けられ、ハンジが酒を掛けた張本人なのだと理解した。
なまえも、その腰を抱く男も、ハンジの周りにいた貴族も、この場にいるすべての人が唖然としている中、ハンジの声だけが室内に響いた。