第5章 様々な表情
「んっめ。にの、あーん」
「んー?…いらない」
「嫌いだっけ?」
「お腹いっぱいだもん」
「早くね?」
「…これ。全部食べた!」
「あー…そっか。うん。」
「うん。」
家に着くと、二宮は少し素直になる。
あーん、と言われても嫌がることは
ない。拒否することはあっても。
「俺シャワー」
「いってらっしゃーい」
二宮がシャワールームに消えていったと同時に
櫻井はレコーダーに昼間もらった
BluRayをセットした。
常日頃から、二宮の1人の現場を
のぞいてみたいとインタビューでも答えるくらい
櫻井は二宮の撮影現場に興味がある。
そんな櫻井にとって、
メイキングは大きな楽しみのひとつ。
翔「………」
カメラマンと笑顔で話す二宮。
リラックスした雰囲気。
かと思えば、
頭をぐるんぐるん回転させているような
真面目な表情。監督の言葉にも
反応が薄くなるくらい考え込む。
自分と同じ現場ではあまり
目にしない、自分から意見をいう姿。
芝居以外のところでも、
別人ではないかと思える
表情の違いにドキドキするのだ。
画面の中の、恋人の姿に引き込まれてしまう。
「…シャワーいけば」
「わっ!…びっくりした…」
「んな真剣に観んなよ、恥ずかしい…」
「ふふ…だって、俺の好きな表情ばっかりでさ♪」
「…ナマより良いの?」
「ナマって…//言い方エロすぎ…」
「はい?意味わからんわ」
「…いって…ふふ。いってきまーす」
二宮は自分が戻ってきたことにすら
気付かずに真剣に画面を見つめる
櫻井に嬉しさと恥ずかしさ、
少しの寂しさを感じた。
バシッと軽く櫻井の頭を叩き
二宮はキッチンに向かった。
冷蔵庫にはビールと水と…少しのつまみ。
食べ物はほとんどない。
二宮はビールを手に取り、さっきまで
櫻井が座っていたソファーに腰掛けた。
画面は一時停止されている。
自分が悩み、真剣に本気で取り組んできた
思い出が頭の中を駆け巡り、
それだけで疲労感すら感じる。
二宮はレコーダーの電源を落とした。
「っはー…」
「ため息ー」
「…お前のせいだ」
「おれぇ!?」
「こんなん見せるから。あーやだ」
「観たの?」
「一時停止してあった」
「え…そこだけじゃん!」
「いやなの!これはホントに…」
「…ん、ごめんな?」
「……飲む?」
「いただきまーす♪」