第1章 晩酌
「乾杯」
「…乾杯」
前に、取材の仕事で貰った赤ワイン。
飲むタイミングを逃し続けて
ずっと放置してたもの。
そろそろ飲まなきゃな、と
言ってたのを思い出して
なんでもない今日、やっと開けた。
「美味しい」
「んー…ワインって分かんないけどね」
「うん、でも美味しくない?」
「美味しいね。」
ソファーに並んで座って
真夜中のちょっとした晩酌。
カズが肩に寄りかかってきた。
2人とも余裕があるときには
普通すぎてあんまり感じないけど
こんな時期にはこの重みに
いつもの倍の幸せを感じてみたり…
「ねぇ…潤くん…」
「……………」
「…潤?」
「ん。なに?カズ」
「…ふっ…無視することないじゃん!」
「だって今は仕事じゃないだろ~」
「……細かい男は嫌われるよ」
「…嫌いになったの?」
「…いいえ?」
「だったらいいのー」
「潤…好きだよー…」
「…えっ!!!?」
「…なに」
「今、好きって言った?!!」
「……言ってない」
「なんでだよ!言っただろ!!」
「……………」
「…明日雨かな」
「……雪じゃない?」
「自分で言うな」
「…ふふっ」
カズは急にさらっといつも
言わないようなことを言ってくる。
「好き」だって…。ふふっ
何ヶ月ぶりに言われただろう。
「俺も」とは言ってくれるけど
カズの口から「好き」と聞いたのは
かなり久しぶりな気がする。
そんな時はどんな時?
……悩んでるとき。不安なとき。