第4章 死神編【前編】
外野からの声はゆうりの耳にも更木の耳にも届かなかった。聞こえるのは木刀の空を切る音と鈴の音だけだ。
けれど勝負に永遠は無い。
ゆうりは普段極限まで抑え込んでいた霊圧を一気に解放させた。突如身体全体が鉛にでもなったかのように重くなり、更木は目を見開く。何だこの重てぇ霊圧は。この女…?
刹那、向けられた殺気に顔を上げる。気付いた時にはもう遅く、体は仰向けに倒され己の上に馬乗りになったゆうりの持っている木刀の先が喉へ突き付けられていた。
呼吸を切らしたゆうりが不敵に笑い、頬を伝い落ちる汗が彼の胸板へとぽたりと垂れる。
「…私の勝ちってことで良いですか?」
「オイオイ、冗談じゃねェ…何処にそんなとんでもねェ霊圧隠し持ってやがった。」
「これでも制御装置で抑えてるんですよ。それに、霊圧解放させたのは久しぶりだったので気持ちよかったです。」
「へェ…ならこのままとっとと第二回戦と行こうじゃねぇか!」
「え!?嫌ですよ!!!」
「俺も似たようなモン着けてんだ。お互い外して本気でやり合おうぜ!!」
「嫌だってば、更木隊長、力強過ぎて腕痺れるんですもん!」
こんな楽しい鍛錬は中々ない。ましてや女があれだけ殺気を放って襲ってくるとは…四番隊には勿体ねぇ戦闘狂じゃねェか。ヒートアップした更木は全く聞く耳を持たない。ゆうりは彼から飛び退くとスっと霊圧を抑え屋根の上へと逃げた。
直ぐに彼女を追いかけようとした更木だったが、慌てた斑目が彼の前に立ち両腕を広げ止める。
「隊長、待って下さい!!ただでさえあの女の霊圧に当てられてウチの隊士がぶっ倒れてんだ、2人が本気で衝突したらマジでヤベぇ!」
「うるせェ!おめェらの鍛え方が足りねェんだろ!!」
「そうだとしても一旦落ち着いて下さい!」
がなる更木を斑目が宥めた。その間にゆうりはひっそりと木刀を綾瀬川に返すと、瞬歩で即逃げる。
斑目と言い合っていた更木が彼女の逃亡に気が付き斑目の静止を無視して探しに回ったが、その日1日ゆうりが見つかる事は無かった。
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