第4章 死神編【前編】
『……流石僕の主人。まぁあくまで、例えであり真実とは限らない。他に可能性は幾らでも有るし、裏切った人物がまだこの護廷十三隊に残っているのか、そもそも消えた隊長達の中に居るのかは分からない。けれど常に警戒心を緩めてはいけないよ。』
「…どっちも考えたくないわ…。」
『思考を止めてはならない。自分で始めた事だ。どんな結果だとしても受け入れる覚悟だったのだろう?』
「……うん。」
『ゆうりに本当に覚悟が有るのなら僕は幾らでも力を貸すよ。安心して、どんな事が有ろうと僕だけはキミの味方だから。』
「ありがとう…がむしゃらに調べるだけじゃなくてもう少し隠される理由について考えてみる。」
『あぁ。次は精神世界で会おう。僕がゆうりをもっと強くしてあげる。』
「もっと強く?」
『そう、卍解だ。』
卍解。授業では習ったが実際に見たことが無いものだ。卍解を使うと今より5倍以上強くなると言われている。あまりイメージは湧かないが…使える事に越したことは無いだろう。
「…具象化は…出来るし、後はこっちの世界で貴方を屈服させれば良いのよね?」
『その通り。手は抜かないよ、ゆうりの為にならないからね。』
「望む所よ。」
胡蝶蘭は優しく微笑むと姿を消した。資料庫での用事も特に無くなってしまったゆうりもその場を後にする。
彼女にはまだ訪れたことの無い隊舎があった。今日はその場所へ足を向ける。
「うーん…正面から入るのなんか怖いな…。」
隊舎の番号が書かれた扉の奥から男達の雄雄しい声が聞こえてくる。顎に手を添え首を捻り頭を悩ませた結果、正面から行く勇気は持ち合わせておらず、隊舎を囲う屋根の上へ瞬歩で移動した。上から見下ろす鍛錬場では汗水垂らした男達が木刀で激しい打ち合いを行っている。中には上半身の服を脱ぎ半裸になっている者まで居た。
「ひゃー…流石十一番隊。血の気の多い人ばかり…。」
ゆうりが今まで訪れたことの無い理由はたったひとつだ。十一番隊は戦闘狂が多いから近づくな。そんな浦原の言い付けを守っていた結果である。しかし今となってはゆうりも死神だ。怖くて近づけない、なんて事も無い。寧ろ戦闘に特化した彼らがどんな鍛錬を詰んでいるのかの方が興味有る。