第4章 死神編【前編】
普段聞くような事が無い彼の低い声音と吐息を吹き掛けるように紡がれた言葉につい身体が強ばる。なるべくこの男の前では他の男の人の名前は出さないようにしよう…。
「ほな仕事頑張りやー。」
「ギンもちゃんと仕事してね。」
ひらひら手を振って市丸は去って行く。見送ったゆうりも残りの書類を渡す為足早に十番隊へと向かうのだった。
「失礼します、四番隊第五席の染谷です。志波一心隊長はいらっしゃいますか?」
「入っていいわよー!」
執務室の中から声が聞こえた。女性の声だ。おずおずと扉を開くとオレンジ色の髪をした女性が恐らく隊長と思われる人物の執務机に手をつきまるで見張るように彼を見下ろしていた。隊長と思われる男はゲンナリとした顔で書類へ筆をゆっくりと滑らている。
「あ、あの…これ卯ノ花隊長から預かった書類です。」
「お……あぁ!!キミが染谷ゆうりちゃんか!!いやあ、これは噂通りの美女だなぁ。俺は志波一心、十番隊の隊長だ。宜しくな!」
「アンタ、ギンに目をつけられてるらしいじゃなぁい。アイツ何考えてるか分かったもんじゃないから気をつけた方が良いわよ〜。あ、あたし副隊長の松本乱菊。よろしくね。」
「あ、はは…えーっと、ありがとうございます。志波隊長、松本副隊長!」
「乱菊でいいわよ、あたしもゆうりって呼ぶから。」
一心は持っていた筆を置いて顔を上げると歯を見せて笑った。松本も1度彼から目を離すなりゆうりへ視線を移しにこりと笑う。その瞬間、一心の姿が椅子から消えた。瞬歩でゆうりの隣へと移動した一心は片手をビシッと上げる。
「んじゃ、俺甘味処行ってくるから後は頼んだぜ!」
「あっ!!ちょっと志波隊長!逃げないで下さい!!ゆうり、捕まえて!」
「えぇ!?」
「フッフッフ…甘いな、そう簡単に捕まりはしないぞ!!」
口角を吊り上げた一心は言葉通り捕まる前に瞬歩で逃げ出した。残された松本は片手を頭に添え大きく溜息を吐く。
「また逃げられた…。」
「た、大変ですね……。」
「いつもの事よう。それより、折角来たしお茶してく?」
「良いんですか?」
「ほら、死神って女の子って少ないから増えて嬉しいのよ。そこの隊長の机の中に饅頭が入ってるから取り出しちゃって。」