第4章 死神編【前編】
「きゃあっ!…ギ、ギン?」
音もなく現れたかと思えば後ろから思い切り抱き締められ思わず悲鳴が飛び出す。わざわざ抱き締めなくても普通に声かけてくれれば良いのに…。驚きからドキドキと高鳴る胸を掌で抑え息を吐く。
「酷いなぁ自分、推薦状送ったのに四番隊に入隊なんて。」
「だって回道を使えるようになりたかったんだもの。ごめんね。」
「ほんなら回道学び終えたらボクの隊に来れるなぁ?」
「もー、考えとくってば。そんなに一緒に居たいわけ?」
「当たり前やろ、ボクがどんだけキミの事待ったと思うとるん。」
眉を下げ小さく小首を傾げる市丸。余りに素直な言葉に少し意外と思いながらもゆうりは俄に頬を赤くした。その反応が予想外で、市丸は笑いながら彼女の頬をつつく。
「照れてはるん?珍しなぁ。」
「て、照れてないよ。そろそろ離して。」
「なんで?」
「凄い見られてるから。」
「人目無かったらええの?」
「そういう事じゃないって!」
市丸が人にちょっかいを掛けたり悪戯する事はまま有るがゆうりに対しての戯れは初めて見る。お互い銀髪という事も有り些か兄妹の戯れにも見えなくもないがどうもそういう訳では無いらしい。
ゆうりは腹に回された腕をそっと解く。
「そういえば髪降ろしたん?」
「うん、あれは借りてたものだからもう返したよ。」
「誰に?」
「白哉に。」
「アレ、いつの間に知りおうたの?」
「霊圧のコントロール方法を教えてくれたのが白哉で、最後の日に借りたんだよ。」
「…ほんまにキミは目を離すと直ぐ悪い虫がつくなぁ。」
市丸はわざとらしく肩を竦めた。そして片手を持ち上げるなり頭のてっぺんから毛先まで優しい手つきで撫で下ろす。
「どうしたの?」
「結んでるのも悪ないけど、この方がええわ。もう結ばんと降ろしたままで居てや。」
「別にいいけど……ギンって結構独占欲とか強そうだね。」
「ひゃあ、バレてもうた?」
ケラケラ笑う彼は口元が笑っているが目が笑っていないように感じた。あ、やばい、ちょっと怒らせたかも…。そう気付いた頃にはもう遅い。髪を撫で下ろした手がそのまま腰へ添えられ力強く引き寄せられる。静かに耳元に寄せられた唇が低く囁いた。
「分こうとるなら、妬かせんといて。」
「……は、はい。」