第4章 死神編【前編】
「お久しぶりです、朽木隊長。」
「…私が最後に話した日、何と言ったか忘れたか?」
「いえ、私はもう死神になりましたし…朽木隊長は上官にあたるので謹んだ方が良いかと思いまして…。」
「構わぬ。あの日告げた言葉を今更撤回するつもりは無い。」
「…そう?じゃあお言葉に甘えて…久しぶり、白哉!」
「あぁ、随分待った。」
へらりと笑うゆうりに朽木はほんの極僅かに頬を緩めた。…やっぱり思った通りだ、笑った顔は蒼純さんに似てる。
ゆうりは髪を縛っていた髪紐を解く。綺麗な銀色の髪がパサリと落ちた。
「卯ノ花隊長から頼まれた書類を持ってきました。それから…コレを返しに。」
「確かに預かった。…懐かしいものだな、この髪留めも。」
使われていた割には、ほつれがほとんど無い髪紐をゆうりの手から受け取った朽木は瞳を細めた。彼女との事を思い出す。突然連れてこられたかと思えば、台風のように過ぎ去り来なくなってしまった少女。彼女がまた自分の目の前に居ることを純粋に嬉しく思った。
「…銀嶺さん達が、この髪留めを白哉から預かったって聞いたらびっくりしてたんだけどそんなに大切な髪紐だったの?」
「これは私が母から貰った髪紐だ。形見のようなものだな。」
「え…!?そんな大切な物を私に貸してくれたの…!?」
「そうだ。ゆうりにならば良いと思った。」
言葉を濁すこと無く滔々と述べられた言葉にゆうりは驚いた。朽木は彼女の表情の変化を気にせず灰色の瞳でゆうりを見詰める。
「聞くが……貴様は本当に流魂街に居たのか?」
「うん、居たよ。ずっと浦原喜助さんの家にいたの。」
「流魂街へ出向いたが、ゆうりの霊圧を感じた事は1度もなかった。本当に生きているのかを疑った程だ。」
「あ…それはね、喜助さんが私の霊圧を完全に遮断する服を作ってくれたの。それのせいかな…心配掛けてごめん。」
「……なるほど、周到なものだな。漸く長年の謎が解けた。」
朽木はそれだけ言うとそっと目を閉じた。彼の考えが読み取れないゆうりは首を傾げる。少しの間を置いて瞼を持ち上げた朽木は再び口を開いた。
「私には妻が出来た。」
「え……お、奥さん!?本当!?」
「流魂街で出会った女だ。身体は弱いが、強く美しい魂をしている。」