第3章 真央霊術院編
「あーあ…そんな顔で真央霊術院戻るん?折角生きて帰ってきたのに、トモダチ心配してまうよ。」
「…ギン……。」
「…しゃあないなぁ。」
彼の掌がするりとゆうりの手を掴んだ。そして真央霊術院へ向かっていた筈の踵を返し何処かへと向かう。行き先も分からないまま引かれる手に従い辿り着いたのは1軒の邸宅だった。
部屋の奥の奥まで連れて行かれたところで、手が離される。1歩前を歩いていた市丸は振り返り、小さく両腕を拡げた。
「ここならだーれも見とらんよ。おいで、ゆうり。」
ぐっと歯を食いしばった。熱いものが目に込み上げてくる。ゆうりは一歩踏み出すと彼へ抱き着き胸板へ顔を押し付けた。市丸は拡げた両腕をそっと彼女の背中へ回し優しく上から下へと撫で下ろす。
「私っ……!!もっとはやく死神になってれば何かできたかもしれないのに…!」
「ゆうりは悪くないやろ。自分を責めても何も変わらん。」
「皆いなくなっちゃった…!!!」
大粒の涙が瞳からぼろぼろ零れ落ちる。悲しかった。寂しかった。怖くて何も出来なかった自分が不甲斐なかった。あんなに助けて貰って、優しくしてもらったのに。何も返せないまま、彼らは居なくなってしまった。酷い喪失感だ。
市丸は自分の腕の中で泣きじゃくる彼女の背中をただ静かに撫で続けた。路地裏で会った時はあんなに怖かった筈の男なのに、今はこの優しさがとても暖かく沁みる。
「…ボクは居なくならんよ。ゆうりが死ぬまでは生きたるわ。」
「本当に…?」
「ほんまに。せやから安心し。」
市丸はゆうりの背中へ回していた手をそっと頬へ添え、上を向かせる。不安げに揺らぎ涙で濡れた瞳はまるで宝石のように綺麗だと思った。眦に溜まる涙を片手の親指でぐっと拭い、反対側の目元へ唇を寄せるなり赤い舌先を覗かせペロリと舐めとる。
「…再会してからすぐそういう事する。」
「再会?…あぁ。せやったな。ゆうりの泣き顔が可愛くてついなあ。」