第3章 真央霊術院編
「……実は私、実習が始まる前に、何かが割れる音を聞いたんです。」
「割れる音…まさか防壁かい?かなり広範囲に張られていたから、耳に届くことは無いと思うが…。」
「だとすると、肌で感じたって言った方が正しいんですかね?あの虚達は霊圧を消せたみたいなので、正直ただの勘違いだったのかと思ってその時修兵…檜佐木くんに何も言わなかったんです。その結果、1回生達を怖い目に合わせてしまい、友達を失う所でした。ほんの少しの違和感でも、相談し、撤退するべきでしたでしょうか…?」
ちらりと2人の顔色を伺った。…動揺している様子は無い。藍染はゆうりの話に眉を下げ、市丸は相変わらず貼り付けたような笑みを浮かべるだけだ。防壁突破された事に気付いていた事を伝えれば揺さぶりを掛けられると思ったが、効果は無いように感じる。
「…そやなあ、少なくとも防壁に異変が無いかは調べても良かったかもしらへんね。」
「だが結果として誰も死なずに済んだ。キミの迅速な判断と行動が無かったら死者が出ていたかもしれない。死神になったら不測の事態など幾らでも起こる。今のように行動を振り返り、反省が出来るのならば染谷くんはもっと良い死神になれるだろう。」
そう言って藍染は笑った。向けられる優しい笑顔に矢張り考え過ぎだったのでは、と思い直す。そもそも彼らは自分たちを救ってくれたのだし、そんな人物達を疑うなど失礼な話である。よく考えれば、2人は瞬歩も使えるのだ。現世に居たのならば早急に辿り着くことも容易いのかもしれない。
ゆうりは漸く肩の力を抜いた。
「…藍染隊長、市丸副隊長、改めて助けて下さって本当にありがとうございました。」
「どういたしまして。」
「今まで通りギンでええよ、今更市丸副隊長ー、なんてよそよそし過ぎて嫌や。」
「ふふ、そう?」
心底嫌そうに眉を下げた市丸に対してゆうりは小首を傾げて笑う。
「あ、せや。ボク春で三番隊の隊長になるんよ。」
「三番、隊…?」
「推薦状送るから受け取ってな。」
あっけからんとした口調で述べる市丸に言葉が出て来なかった。三番隊の隊長は、鳳橋だった筈だ。一体何人の隊長が居なくなってしまったんだろう。