第3章 真央霊術院編
檜佐木は、バンっと音を立てて名簿を閉じる。その瞬間、一瞬空気がピリついたのをゆうりは逃さなかった。肌に感じる殺気。虚の気配は無い。直ぐに辺りを見渡す。そして目撃したものに、大きく目を見開いた。檜佐木はソレに、気付いていない。青鹿もだ。気づいたのは、ゆうりとソレのすぐそばに居た蟹沢だけだった。
「よし!集合!!以上で本日の実習を…ーー。」
「ひ…檜佐木く…」
「ほたるちゃん逃げて!!!」
蟹沢の直ぐ隣に迫っていたのは、ヒュージホロウだった。滅多に現れる事の無いその存在に彼女は震え、動けない。体は人の何倍もあり、醜悪な姿をしたソレは大きな鉤爪を振り上げ…恐ろしい勢いで振り降ろされる。
1回生はおろか、青鹿と檜佐木すらもあまりにも突然過ぎる襲撃に動けなかった。その中でゆうりだけは反射的に瞬歩で彼女の元へ移動する。蟹沢の腹に腕を回し抱えて宙へと逃げたが、間に合わなかった。蟹沢へ向けられていた2本の鉤爪がゆうりの背中を深く抉り裂いた。
「ぐっ……!!」
「ゆうり!!!」
「ゆうりちゃん!!」
「う…うわああああ!!せ…ッ、先輩がやられた!!!」
「な…なんだ…!?なんなんだよあれは…!!」
気を失いそうな程の痛みに顔を歪めた。実習前に聞こえた割れる音は、この虚が防壁を突破した音だったのか…その時点で一度引き上げる判断をしておけば良かった。そんな後悔の念も今となっては遅い。ゆうりは痛みから気を逸らそうと奥歯を食いしばり、視線を泳がせ青鹿を見つけた途端抱えていた蟹沢を思い切り投げ飛ばした。
「うおっ!?」
「青鹿さん、ほたるちゃん、今すぐ1年生連れて尸魂界に逃げて!!」
「でもゆうりちゃんが…!」
「良いから!」
「…行くぞ蟹沢!!」
「でも…青鹿くん!ゆうりちゃんが私のせいで…!」
「檜佐木も居る、大丈夫だ!1年共、着いてこい!!死にたくねェなら早くしろ!振り返るな!!」
青鹿は1年生を先導し、暫く動けなかった蟹沢も意を決めその後ろについて1回生達を連れ避難を始める。ゆうりは一度地面に足を降ろすと片膝をついた。真っ白だったはずの服は背中から溢れる血液でみるみる赤く染まっていく。
「お前も下がれゆうり!」