第2章 過去編
市丸との出会いから数日。ゆうりは今日十二番隊で働く阿近の元へ訪れていた。テーブルの上で見たことも無いような色の変化を繰り返す液体の調合する姿を反対側の椅子に座りジッと見つめる。
「ねぇ、阿近。何を作ってるの?」
「副局長に頼まれてる調合液。」
「楽しい?」
「…まぁな。」
「ふふ、それは良かった。」
自分より背が低く小学生程の阿近はゆうりにとってまるで弟の様で一緒に居るのが楽しかった。仏頂面で表情の変化は乏しいものの、会話には答えてくれるしたまに笑う。
「阿近、32番の薬液は出来たかネ?」
「出来ました。」
椅子から降りた阿近は完全に色の変化が出なくなった試験管に蓋をしてから涅へ持って行く。ゆうりもその後を着いて行った。
「ご苦労。では次21番を作ってくれ給え。」
「はい。」
「ねぇ涅さん、私にもこういうの出来ますか?」
「面白い事を言うネ。キミに新たな物を生み出し、実験し、成功させる楽しみが分かるとは思えんヨ。」
「そんな事ないですよ、新しいものを作るのは好き。壊れた物を直してあげるのも好き。」
「なら作る為の知識を身に付ける事だネ。脳が無い者は何も生み出すことは出来ない。まァ、実験に失敗も付き物だが…馬鹿が作り出すのはゴミだけだヨ。」
「知識…。」
涅は些か彼女を馬鹿にするように小さな頭を指先で小突いた。しかしゆうりは神妙な顔付きで涅の言葉を復唱すると間を置いて屈託のない笑顔を見せて大きく頷く。
「…それもそうですね。私、死んだ事をまだ受け入れられなくてこの世界から目を背けてたけど、それじゃあいつまで経っても何も出来ない…これからどう生きるのかも決められないままだ。ありがとうございます、涅さん。」
「はァ?礼を言われる意味が分からないヨ…。理解し難い女だネ…。」
貶したつもりが礼を言われるとは思っておらず到底理解のできない彼女の表情の変化に涅は苦々しく顔を歪めたが、ゆうりは気にする事無く彼に頭を下げてから部屋を後にした。
ゆうりが足を運んだのは、二番隊である四楓院の隊舎前だ。扉の前では砕蜂が立っており、ゆうりは彼女へ駆け寄る。
「こんにちは、砕蜂さん。夜一さんはいらっしゃいますか?」
「ゆうりか。夜一様はいらっしゃるが…何用だ?」