第13章 破面編(前編)
煙が晴れた先で立っていたのは、背中に平たい甲良の様なものを纏い、そこから8本の触手を生やしたルピの姿だった。虚らしい異形というほどでは無い。寧ろ姿だけで言えば殆ど人のままだ。ゆうりは初めて目にした破面の解放に目を見張った。回帰に近いと聞いていた為にもっと、異なる姿になる事を想像していた故に驚きを隠せない。
「何…だと…。」
驚いたのはゆうりだけではない。日番谷もであった。ただでさえ、1本でも身体が押し返される程の威力だった。それが8本ともなれば、抑えるのも容易ではない。間髪をいれず、8本の触手が日番谷へ襲い掛かる。様々な角度から向けられるそれを防ぐには、翼も足りない。何かを判断するよりも先に、触手が彼の氷すらも穿いた。
「隊長!!!」
「く…そ……ッ。」
「…ぁ、ッ……!」
全身を打たれた日番谷は、砕けた翼と共に地へ落ちていく。焦った松本の声が響き渡る。ゆうりも口を開くが、声が出せない。余計な言葉は、発せない。
「言ったろ?4対1でいこうよ、ってさ。ア、ごめーん。4対8だっけ?」
8本の触手を蠢かし、舌なめずりをして挑発的に笑うルピ。そう声を掛けるだけあって、松本達も随分彼に苦戦しているようだった。
それぞれの触手は太く硬質で、鞭のように振るえばその威力は充分だ。ただ回転させるだけでも彼に近付く事すら困難になる。残された彼女らは倒れはせずとも傷は増えていくばかりで、何も出来ない歯痒さにゆうりは唇を噛む。どうか、死なないで欲しい。そう願う事しか出来ない。
「なんだ、話んなんないね。キミたちホントに護廷十三隊の席官?もしかして、ゆうりもこんなモンなの?だとしたら拍子抜けなんだけど。」
「…さぁ、どうでしょうね。」
「ふん、相変わらず可愛くないね。」
ルピはつまらなそうに返すと再び死神達へ視線を戻す。
唯一相手をしていた筈の日番谷もルピに盗られ、死神を纏めて相手取る彼により戦う相手を完全に失ったヤミーは空中で胡座をかいてその様子をさぞ退屈そうに眺める。かくいうゆうりも、同じように見ている事しか出来ない。どれだけ死神が傷を負おうと、手出することは許されない。もう一人ここへ連れてこられていたワンダーワイスについては矢張り戦いそのものに興味が無いのか、空を飛ぶ蜻蛉を赤子のように追い回すだけだった。