第3章 真央霊術院編
「修兵、結構髪伸びたね?結べそう。」
「そうか?」
「うん。切ってあげようか?」
「いや、辞めろ。絶対下手くそだろ。」
「失礼ね、こう見えて結構器用なんだよ!」
「どうだか。」
ゆうりと檜佐木は放課後、2人だけで森に来ていた。ゆうりは瞬歩の練習、檜佐木は鬼道の練習の為に。その鍛錬の合間、切り株に座っていた彼の後ろに立ったゆうりは檜佐木の襟足を指先で摘む。
「もう卒業まで1年もないね。あっという間だったな。」
「そうだな。でも、会った時より随分強くなった気がするぜ。」
「そうだね。白打はあんまり得意じゃないけど…。死神になったらこうやって修兵達と話せる機会も少なくなるのかなぁ?」
「そりゃ隊が違えば会う機会も減るだろ。」
「寂しいね…。」
「九番隊に来るか?」
「行かないってば。…九番隊って、六車さんが隊長、だよね…?」
「あー…。」
檜佐木は知っていた。今各隊誰が隊長を務めているのか。けれどそれを彼女に教えていいのか迷った。
言い倦ねる姿にゆうりも何かを察したのか、一瞬瞳が揺らぐと首を小さく横に振り切り株の隣に座る。
「ううん、やっぱりいい。聞かないでおく。」
「…おう。」
静かな沈黙が続く。ゆうりは膝を抱え空を見上げた。青々としていて、雨が降る気配すら無い。そんな彼女の視線につられて檜佐木も空を仰ぐ。
「…俺ガキの頃今よりずっと弱虫だったんだ。」
「そうなの?」
「あぁ。虚に追い掛けられた時、丁度いいタイミングで六車さんが助けてくれたんだよ。そんで、泣いてる俺に名前を聞いて来て…名乗ったら、強そうな名前だって言ってくれた。」
「ふふっ、六車さんらしい。」
「そん時思ったんだよ。俺もこんな人になりてェって。やっとスタート地点に立てる。」
檜佐木は空から視線をゆうりへ移し嬉しそうに歯を見せて笑った。屈託のない心底嬉しそうな笑顔を浮かべる彼にゆうりも頬を綻ばせる。
「歩む道は違うかもしれないけど…お互い頑張ろうね、修兵!」
「あぁ。」
ゆうりは片手で握り拳を作り彼に向けて差し出した。檜佐木も同じように拳を作ると、優しくコツンとぶつける。そんな約束を交わしたゆうりと檜佐木は、鍛錬を再開させた。