第13章 破面編(前編)
藍染が崩玉を包む箱へ指先を差し込むと、崩玉はまるで生き物のように球体から細く短い触手を伸ばし餌を求めるかの如く指へ触れた。物体に意思が有るとかと錯覚しそうなその動きとおぞましさにゆうりは口元を手で隠す。
藍染と僅かな融合を経た崩玉の力なのか、人型の何かを覆っていた大きな箱は一瞬にしてヒビが入り、硝子の様に音を立てて割れる。崩れ行く箱の中から顔を出したのは細身の男…破面だった。蛹から羽化したみたく、辺りには箱の破片に混ざり身体中を覆っていた分厚い殻が散乱しており産まれたばかりの彼は床に手を着いて藍染を見上げる。
「…名を聞かせてくれるかい。新たなる同胞よ。」
「…ワンダーワイス…ワンダーワイズ・マルジェラ…。」
初めて破面が産まれる瞬間を目の当たりにしたゆうりは、興味深そうにウルキオラの後ろからその姿を眺める。仮面を剥いだ、とは聞いていたがまさか1度全身を殻に包んでから産まれるとは思ってもみなかった。周りに落ちているのは、仮面と同じ成分なのだろうか。人とは全く異なる産まれ方に口元に添えていた手を顎に移して首を捻る。
「──1か月前に話した指令を憶えているね、ウルキオラ?」
「…はい。」
「実行に移してくれ。決定権を与えよう。好きな者を連れて行くと良い。」
「…了解しました。」
「…あぁそうだ。君も一緒に行くかい?グリムジョー。」
藍染の視線の先を追うとそこには水色の髪をした男が座っていた。胸から脇腹に掛けて大きな傷痕が有り…左腕が無い。話には聞いていたが自宮から出て来ない彼を見たのは今日が初めてだった。
「彼がグリムジョーね…。」
「君も行くんだ、ゆうり。」
「……え?」
「自らの口で、私に下った事を死神達に伝えるといい。勿論、それ以外の言葉を紡ぐ事は赦さない。」
「どうしてわざわざそんな事を…。」
「理解出来ないほど馬鹿では無いだろう。」
藍染の指先が頬を撫でる。
聞くまでもない、それはその通りだった。深く考えずとも藍染の目的は分かる。私は曲がりなりにも隊長を預けられた身だ。そんな自分まで離反したとなれば尸魂界における損失は大きい。しかも、彼に助力している可能性があるとすれば尚更だ。