第13章 破面編(前編)
「あら……ふふ、そうなのね。じゃあ食べちゃおう。」
葉の無い枯れ木の形をしたものに一つだけ小さな白い林檎がなっていた。その目の前で顎に手を当てブツブツと呟くゆうりを見てウルキオラは声を掛ける。
まさか彼から声を掛けてくるとは思っておらず、彼女は一瞬目を丸めて静かに笑う。片手に収まるほどの小さな果実を手に取り、軽く捻ってやれば簡単に捥げた。鼻先に持っていき、匂いを嗅いでみるも何も感じ無い。所謂無臭だ。それ故に味の想像もつかない。口を開き、恐る恐る齧り付く。
「……味も無い。食感は…林檎に近いのかしら。無味無臭過ぎて味付けをしたら思ったよりも普通に食べられそうね…。ウルキオラも食べる?」
「要らん。」
「まぁ、そうよね。」
「断ると分かっていて何故聞いた。」
「さっきも言ったでしょ?貴方との会話を楽しんでるのよ。」
「…無駄な事を。」
「ウルキオラが思っている程無駄じゃないわ。」
ゆうりは果物を食べ終わるとその場にしゃがみこみ、芯を砂へと埋めた。果たしてこれが再び芽吹く事が有るのかも分からないが。ウルキオラは特にそれを止めることは無く、相変わらず表情1つ変えないまま彼女を見下ろす。
「何故そう思う?」
「会話をする事で貴方を知れるもの。とても大事な事よ。」
「知る事自体が無駄だと言っている。俺を知ったところで何も無い。虚無だ。俺には虚無しか無いのだから。」
「そう?貴方にも仲間がいるじゃない。自覚が無いだけで空っぽなんかじゃないわ。」
「仲間?反吐が出るな。この虚圏で産まれてからただの一度も俺に仲間がいた事などない。」
「…じゃあ私と友達になってくれる?」
「俺に人間と同じ扱いをするな。」
「これで貴方にフラれたの何回目かしら。」
「…そろそろ行くぞ。」
「今度はどこに?」
「藍染様がお呼びだ。」
「…………。」
ゆうりの表情が一気に曇る。藍染に呼ばれるなど、ろくな事が起こらない。今回もいい話では無いのだろう。それだけで一気に陰鬱な気持ちになる。
ウルキオラは彼女に一瞥くれると、声はかけずに踵を返す。
ゆうりも少しの間を空け、その後を着いて行くのだった。
その道中。角を曲がった少し先で最早見慣れた黒髪の男が立っている。